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Habari za Dar es Salaam No.101   "Uchaguzi Mkuu 2010" ― 2010年総選挙 、候補者出揃う ―

根本 利通(ねもととしみち)

📷  8月19日お昼ごろに空港に向かった人は、道路が時ならぬ渋滞で、街から空港まで2時間もかかり、飛行機に乗り遅れるのではないかと、冷や汗をかいたに違いない。この日、選挙の立候補者が選挙管理委員会に届出する最終日であった。特に政権与党であるCCM(革命党)と、それに対抗する有力野党であるCUF(市民統一戦線)とCHADEMA(民主開発党)の正副大統領候補が、車やバイク、バジャジ(三輪タクシー)と支持者を連ね、大通りをデモンストレーションしながら、選管に届け出たため、昼下がり時ならぬ大渋滞だったのだ。

 今年10月31日(日)に予定されている複数政党制に復帰して第4回目の総選挙の、大統領および国会議員候補が出揃った。連合政府とザンジバル自治政府の両方である。8月20日から選挙戦が正式に開始され、ポスターが張り出された。

 まず、ザンジバル大統領はアマニ・カルメ大統領が2期10年の任期を終了するので、後継には十数人の名前が挙がっていた。結局CCMでは、11人の候補者が指名を求め、最終的に3人に絞られ、CCMの全国執行委員会(NEC)での投票の結果、アリ・ムハメッド・シェイン現連合政府副大統領を候補に選出した。シェイン副大統領は117票を獲得し、ライバルのモハメッド・ガリブ・ビラル元ザンジバル政府首相の54票、シャムシ・ヴアイ・ナホーダ現ザンジバル政府首相の33票を押さえた。シェイン副大統領は、温厚な人柄で知られ、政敵が少ないこと、かつ野党CUFの強力地盤であるペンバ島出身であることが期待されたのだろう。

 CUFは予定通り、セイフ・ハマド党書記長が4度目の出馬となる。4回目ともなるとペンバ島希望の星も色あせて見え、執念のみが目立つように感じられる。

 7月31日にザンジバルでは、選挙後の「連立政権」を巡る国民投票が行われた。過去3回政権与党であるCCMと野党であるCUFが僅差の接戦を展開し、毎回選挙戦、選挙結果発表後に流血を含む暴力事件が繰り返されてきた。今年1月、それを避けるために、国民統合政府法案がCUFによりザンジバル国会に提案され、通過し、5月大統領が署名した。憲法改正につながる法案なので、今回国民投票にかけられたわけだ。

📷  ザンジバル選挙管理委員会の発表によれば、投票者293,039人の内、188,705人が賛成票を投じたとのことだ。64.4%になる。反対票は95,613票だったようで、無効票を除いた賛否の比率でいえば66.4%になるので、政府系の新聞はこの数字を挙げていた。賛成の比率を少しでも高く見せたいのだろう。

 総選挙の選挙人登録数は407,669人だそうだから、投票率は71.9%に止まった。これらの数字をどう見るかは意見が別れるが、賛成票が意外と少なかったと感じる。第三の政党がほとんど存在しないに等しいザンジバルの二大政党が賛成した法案だから、もっと圧倒的に支持されると思われたが。やはり、過去熾烈に対立した二党の支持者にとっては割り切れない思いがあったのだと思う。また、選挙というのが権力争奪戦であるとすれば、権力の共有が有効に機能するのかという不安は残る。特に過去権力を独占してきた与党側がすんなりと受け入れるだろうか?この国民投票で反対票が多かったのは、議会50選挙区で見ると10選挙区で、全てウングジャ島で、CCMの強力地盤であった。特に南部のマクンドゥチ選挙区では賛成票は22%しか出なかった。投票率から見て、棄権という消極的反対もあったようで、政権与党支持層の不満が強いようだ。

 大統領選挙に勝った政党が、当選した議員の中から第二副大統領を出し、負けた方が第一副大統領を出す。大統領は内閣を各党の議会の比率に応じて任命するが、首相は当然多数党から出ることになるだろう。現在はCCMとCUFという圧倒的な二大政党間の協定であるが、もしある程度勢力を占める第三党が出現したら、どうなるだろうか?ともあれ、憲法改正は8月9日にザンジバル議会で承認され、発効したので、平穏で公正な総選挙を迎えて欲しいものだ。

 連合政府の方だが、CCMはキクウェテ大統領が再選を目指し、党内の指名選挙でも対抗馬は現れず、信任投票では、1,893票賛成、16票のみが反対という圧倒的な支持を得た。副大統領候補はシェインがザンジバルに転出したので注目されていたが、ザンジバル大統領候補選出の際に次点となったガリブ・ビラル元ザンジバル政府首相が選ばれた。ビラル元ザンジバル首相は65歳。カリフォルニア大学で原子力科学で修士号、物理学で博士号をとった。その後、ダルエスサラーム大学講師、理学部長、連合政府科学技術省次官などを歴任の後、1995年ザンジバル自治政府首相に就任した。2000年の選挙の際には、ザンジバル自治政府大統領の指名を求め、アマニ・カルメ現大統領に敗れた。

 野党側で、大統領選挙に届出したのは、CUFとCHADEMAを初めとして、TLP(タンザニア労働党)、NCCR(建設と改革のための国民会議)、UPDP(統一民衆民主党)、APPTの6党になった。他に2党が届け出たが、要件を満たさずに失格とされ、さらに申請用紙を持っていったもう3党は届出をしなかった。CUFは4回連続、イブラヒム・リプンバが出馬する予定。リプンバはタボラ州出身で、元ダルエスサラーム大学経済学教授、ムスリム。ただ、CUF内でも若手に道を譲るべきだという声はあるようだ。

📷  CHADEMAは、2005年の大統領選挙に出馬したボエは、今回は地元キリマンジャロ州の国会議員選挙にまわり、代わりに現在マニヤラ州カラツの国会議員であるウィルブロード・スラーが大統領選挙に立つようだ。スラー議員は野党陣営の重鎮であり、国会議員なら勝てるのにと惜しむ声もある。押し出されるような立候補だが、勝ち目はともかく、キクウェテの票をある程度減らすのではないかと期待する向きもある。元カトリックの牧師。

 TLPは、今回はムレマ候補ではなく、別の無名の候補者ムタムウェガ・ムガフヤを擁立する。ムレマは地元キリマンジャロ州の国会議員に立候補する。もう過去の人だろうという気がするが、国会議員ならCCM候補といい勝負になるだろうか?。それ以外の大統領候補は、ハシーム・ルングウェ(NCCR)、ファフミ・ドヴトゥワ(UPDP)とピーター・ムジライ(APPT)である。

 ダルエスサラーム大学の「タンザニアの民主主義のための調査と教育」(REDET)が、今年3月に実施した世論調査では、現在選挙があったらキクウェテに投票すると答えたのが4分の3以上だったという。2位はCUFだが、わずか9.2%。3位はCHADEMAで4.2%の支持率、8.8%が態度未決定ということで、その他の15政党は全くマイナーな存在である。

 圧倒的優位にあるCCMであるが、キクウェテ大統領は、CCMで指名が確定したその後の国会でのお別れ演説で、2005年彼が就任して以降5年間の実績を誇示した。例えば   ・最低賃金が、65,000タンザニア・シリングから、135,000シリングにアップした。   ・GDPが15兆9000億シリング(2005年)から、28兆2000億シリング(2009年)にアップし、その結果、個人所得も441,030シリングから、693,185シリングになった。   ・輸出が29億9490万ドル(2005年)から46億9360万ドル(2009年)に増加し、外貨準備もそれに伴い、22億1000万ドルから35億5000万ドルに増加した。   ・政府予算が、4兆1300億シリング(2005/6年)から11兆6000億シリング(2010/11年)に増加する一方、援助依存率が44%から28%まで下がった。   ・協同組合の数が、5,730から9,501に増加した。   ・1985~2005年の20年間にわずか543件の汚職裁判しかなかったが、この5年間で780件の訴追が行われた。

📷 シリングの為替交換率は下落しているから、シリングの数字をそのまま受け取るのは危険だが、注目すべきは汚職に対する訴追の言及だろう。過去20年より汚職の摘発が7倍以上に上っているのを、「汚職に対する意識・戦いの前進」と見るのか、「汚職の蔓延」と見るのか、意見が分かれるだろう。上述REDETの調査に依れば、もし3月に選挙が行われたら、与党CCMの議員の60%は落選するだろうとのことだ。タンザニアにおける世論調査と実際の投票行動の乖離は、過去の総選挙でも証明されているから、この数字を鵜呑みにするのは危険ではある。が、現役国会議員の不人気は、地元への貢献の乏しさ(利益誘導の不十分さ)なのか、腐敗への嫌気なのか、注目される。

 果たしてCCMは、本当に圧倒的に優勢なのだろうか?8月に入り、各地で国会議員の予備選が行われた。注目の与党CCMの予備選は8月1日に行われたのだが、現役国会議員のかなりの部分が予備選で敗退した。これは毎回新人の台頭があるので、珍しいことではないが、今年のめぼしいものを見てみたい。

 今回CCMに属する国会議員(約230人)の内、予備選で敗退した現役議員は80人を超え、その中に大臣が6人もいる。最も大きな衝撃は、マリチェラ元首相の敗退だろう。マリチェラは、タンガニーカ独立前の1960年にムベヤの県の長官になって以来、50年間政治の世界にいた。ドドマ州ムテラ選挙区の議席を過去35年間保持し、1990~94年の間首相を務め、ムウィニ大統領の後継最有力候補であった。ムカパ第三代大統領に候補指名で負けたとはいえ、CCM副議長などを歴任し、CCMの旧世代を代表する大物であった。このマリチェラに予備選で挑戦した若い世代のマラ州タリメ県党書記に、5,810票対5,379票という小差で負けた。

 マリチェラ元首相以外にも、35年間議席を保持していたジョンベのジャクソン・マクウェッタも予備選で敗退した。マクウェッタも教育相、農相など大臣を長期歴任した。それ以外にも、20~30数年政治の世界にいて、大臣経験者であるジョエル・ベンデラ、ザイナブ・ガマ、ジュマ・ムワパチュなども予備選で敗れ、世代交代を示した。

 予備選で勝った候補者がそのままCCMの候補者として公認されるわけではない。選挙に不正があったと見なされたり、大物の方が本番の野党との戦いに有望だと認定されれば、CCMのNECでひっくり返ることもある。そこは政治の世界だ。しかし、マリチェラなどの旧世代は、党の大会でも逆転候補になることはなく、引退に追い込まれた。日本の政党の候補公認のやり方よりはより明快かもしれない。ただ、CCMの予備選で敗退した国会議員が、CHADEMAやNCCRなどの野党の候補に移籍する例もあるから、政治信条の違いというのはあまり重要ではないと見える。が、これも日本の政党間の移動を見ていると同じかもしれない。

 タンザニアの人口も、2009年末推計では4,190万人となった。登録有権者数は選管の発表では、2,044万人。2005年総選挙の際は、1,640万人ほどであったから、400万人ほど増加した。そのほとんどは18歳になった新有権者たちで、選管発表では442万人となっている。「もう自分たちの時代ではない」と登録に行かなかった年配者も複数知っている。ニエレレが大統領を辞めた1985年からもう25年経過した。新有権者たちがどういう投票傾向を示すだろうか?時代を大きく動かすような変化が見られるだろうか?

(2010年9月1日)

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