根本 利通(ねもととしみち)
2011年、明けましておめでとうございます。
本年が、世界とタンザニアと日本の人びとにとって、平和で幸せな年になるように祈念します。
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抗議の退場をするCHADEMA議員たち©Citizen
日本という国家は、遠めに見ても迷走しているように思えるのだが、タンザニアという国家も難問山積みのようだ。
キクウェテ第二期政権は、大統領宣誓式、ピンダ前首相の再指名、国会による承認、閣僚の発表と宣誓式という手続きを経て、11月27日(土)正式に発足した。
第二期政権の閣僚は、50名。第一期政権の発足時の60名よりは少ないが、第一期の改造内閣(ロワッサ前首相がリッチモンド・スキャンダルで辞任した2008年2月)の47名よりは多い。これは省庁の改編があり、インフラストラクチャー省が、元々の建設省と運輸省に再分割されたためである。また、前回水省に移管された灌漑局が、再度農業食料安全省に戻された。
大臣29名、副大臣21名の陣容で、新顔は24名。内女性大臣は7名、副大臣は1名。29人の大臣の出身地を見ると、見事に全国に散らばっている。タンザニア本土には21州あるが、大臣の出ていない州はわずかに2州だけである。ザンジバルからは4人大臣が出ているが、内閣にはこれ以外に副大統領、ザンジバル大統領も入るから、ザンジバル出身者は33人中6人という高い比重を占めている(残念ながら、副大臣の出身地までは分からなかった)。
大統領選挙での不正などを訴えて、次点だったCHADEMAのスラー候補は、大統領の宣誓式を欠席し、国会でのキクウェテの施政方針演説にも、所属国会議員を抗議の退場をさせた。しかし、これは国民に支持は広がらず、却って所属の国会議員に不協和音を引き起こした。野党の主張は、中央選管が大統領の任命である以上、与党に有利な選挙管理、裁定が行われるので、それを避けるために、中央選管は政府から独立した機関になるように、憲法改正すべきだということである。
その後、タンザニア法学会が、憲法の見直しを訴えたり、憲法学者を巻き込んだ論争になっているが、世論は野党の主張に与しているように見える。ただ、現状が有利な与党が果たして憲法改正に踏み込むかどうか。引き延ばし、世論の沈静を待っているようにも見える。コンバニ法務大臣やウェレマ司法長官は、憲法改正に慎重もしくは否定的な見解を出したが、与党の議員の中にも、「国民の意見を聞いた方がいい」と発言するものも出たし、ピンダ首相は諮問委員会の設立を示唆している。
12月28日に、CUFがダルエスサラームで、デモを行おうとした、CUFによる新憲法草案を、法務省に届けるという平和的なデモの計画であったが、警察は禁止し、それを強行しようとしたCUFの役員は逮捕されたが、憲法草案は法務省次官の手に渡ったという。警察の弾圧は、ゆるくなったのか?CUFの憲法草案は、「改正案」ではなく「新憲法」だと言われる。連合政府大統領の権限を縮小し、タンガニーカとザンジバルの二つの政府に、連邦に関わらない権限を大幅に委譲する。タブーであった「三つの政府」案が公然と浮上している。そして、12月31日の新聞報道によれば、ザンジバルの司法長官は新憲法の制定の必要を認めたとされ、連合政府とザンジバル自治政府の立場の違いが、浮き上がってくる可能性を示した。
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新任のティバイジュカ土地大臣©Citizen
総選挙で大きく得票率を落としたキクウェテであるから、各閣僚に、「目に見える成果」を求めているようだ。従って、各大臣もマスコミに載るように動いているようだ。
最初、よく登場していたのはティバイジュカ土地大臣。国連に出向していた女性である。この数年間に、各地の空き地(保有者がないとみなされる)土地の保有権が、外国人や企業に売り渡され、その土地で生計を立てていた人たちが追い出される事件が起こった。その過程では、土地省の役人などによる収賄があったと想像されている。そういった土地の国家による再収用を、大臣は宣言した。一般民衆には人気を博しているが、果たして外国企業と折り合いがつくのだろうか。
エネルギー大臣も頭が痛いに違いない。12月1日の報道では、国際司法裁判所から、TANESCO(タンザニア電力公社)に、1億2360万ドルの賠償支払いを命じた。2010年6月15日、民営化移行により南アの会社に経営を託していた契約を、一方的に打ち切った違約金である。この違約金を「払うべきではない」とする与党大臣、野党指導者と、「払わざるを得ない」とする司法長官との間で、論争になっている。2007年のリッチモンド・スキャンダル以降、タンザニアの電力問題は、明るい話題がない。天然ガスの生産が軌道に乗っているにも関わらず、相変わらず計画停電はなくならず、新年からは電気料金もガス料金も大幅にアップされる模様である。
「Kilimo Kwanza(農業第一)」の政府のスローガンを実施する責務のある農業大臣も、「米の生産を3倍にする」と記者会見で述べている。現在のタンザニアの米の生産は90万トン、国の需要は120万トンだそうだ。それを生産高270万トンに引き上げ、150万トンの余剰を生み出す。それも3年以内に。アフリカ用の新しい米(ネリカ米)の増産計画なのだと思うが、地域はやはり手っ取り早く、タンザニア最大の河川ルフィジ川流域になるのだろうか。そうするとセルー保護区の存続にも大きく影響を与えそうだ。
運輸大臣は、何ヶ月ぶり(?)に再開された、ダルエスサラームからキゴマへ行く中央鉄道に乗り込むパフォーマンスを見せたが、実は解決策はもっていないのではないか。タンザニア鉄道会社(TRL)も、民営化移行の際に、51%の株をインドの経営会社に売り渡し、50年間の契約を結んだ。その会社による経営合理化により、雇用削減、線路保全の簡略化など、様々な問題が起きて、従業員のストなどが起こっている。インドの会社との契約を打ち切る話もでているが、その場合、電力会社の問題と同じように、違約金問題が起こるだろう。瀕死状態の国営航空(タンザニア航空)の先行きも不透明である。
もっと頭が痛いのは大蔵大臣だろう。予定に比べ、17%ほど歳入が落ち込んでいると発表されている。その欠陥は、援助国による援助額の削減によるものと言われる。
タンザニアは果たしてどういう国家を目指すのだろうか?民衆が主人公になるのが、民主主義の理念だとして、果たして機能するのか?あるいは欧米型の民主主義は万能ではなく、あたらな道を模索しなくてはならないのか?難しい年明けである。
(2011年1月1日)
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