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Habari za Dar es Salaam No.137   "Gesi Asilia ya Mtwara" ― ムトワラの天然ガス ―

根本 利通(ねもととしみち)

 モザンビークと国境を接する南部ムトワラの沖に天然ガスが産出することはかなり前からわかっていた。ダルエスサラームから見てムトワラの手前のキルワの沖のソンゴソンゴでは10年以上前から商業生産が始まっていたし、モザンビークでも大規模なコンソーシアムが組まれ、日本の企業が参加している。ムトワラでも商業生産にかかることは時間の問題だった。金はともかく、石油などほかの地下資源に乏しいとされ、電力事情のひっ迫しているタンザニアにとって、天然ガスの産出は干天の慈雨のように待望されていた。

📷 ガスパイプライン計画 『Mwananchi』2013年2月14日号  さて、昨年概要が見えてきたムトワラ沖の天然ガスの開発計画は以下の通りである。

 ムトワラの町のすぐ沖(Mnazi湾)の天然ガスは1982年イタリアの会社に発見されて以来、埋蔵量の推定はどんどん増えているが、海岸部で採掘可能なのは22%(ムトワラ州14%、リンディ州7%、コースト州1%)で、残りの78%は海岸から60~80km離れた沖合で採掘されるという(ムホンゴ・エネルギー鉱山大臣)。ムトワラにはStatoilによる液化プラントが作られ、その費用は150億ドルと見込まれる。これは現在のタンザニア国家予算より大きい。このLNGは年間1,000万トンが見込まれ輸出用である。

 LNGとされないガスは532kmのパイプラインでダルエスサラームに運ばれる。この建設は中国の会社が請け負い、費用は12億2530万ドルドル。ダルエスサラームではキニェレジで建設中のガス発電所に送られる。この発電所は4期に分かれていてうち第2期は日本の企業が建設中であるが、完成すれば990MWの発電能力を持つとされる。この数字は現在のタンザニア全体の実際の発電能力とほぼ等しい。

 ある経済専門家によるインパクトの予想は次の通りである。タンザニアでも確認可採埋蔵量が33.1TCFまで上方修正された(2012年10月)。まずこれまでは不安定で高価なエネルギー供給(不安定な水力発電と割高な輸入燃料による火力発電によっている)が産業開発のネックとなっていたので、これが軽減されることの意味は非常に大きい。

 2012年7月からのタンザニア政府の予算は次のようになっていた。政府の歳出が約98億ドル。うち税収が59億ドル、外国からの援助が27億ドル、国内外からの商業的借り入れが19億ドルほどであった。これに対し、現在の天然ガスの採掘調査をしている外国の会社は2系列(British Gas/OphirとStatoil/Exson Mobil)あるが、商業生産・LNG輸出が軌道に乗ると思われる2020年以降20年間の国庫収入は各系列20~25億ドルと見込まれているという。ということは昨年度の援助の倍に当たる国庫収入があるわけで、数字上は援助が不要になるという。

 経済については素人の私なんぞ、それだけ外貨が入ってきたら為替レートはどうなるのだろうか。もしシリング高になったりしたらコーヒー農民のの手取りは減るのだろうか、また製造業の輸出競争力はよほどの生産性向上がないとガタ落ちになってしまうのではないか。また援助が要らなくなるなんてことは起こらず、その分政治家が減税などの人気取りをするのではないか。さらに経済格差が急激に広がり、ナイジェリアやアンゴラのような状態にならないだろうか(さすがに赤道ギニアのようなことにはならないだろうが)と心配してしまう。バラ色の未来ではなく、ついつい悲観的な予測に走ってしまうのは、私の悪癖なのかもしれないが。

📷 ガスパイプライン建設に反対するムトワラでのデモ 『The Citizen』2012年12月28日号  2012年12月27日、ムトワラでダルエスサラームへのパイプライン建設に対する反対のデモが起こった。これは11月8日キクウェテ大統領によって起工式が行われたガスをダルエスサラームに送るための532kmのパイプライン建設に反対するデモである。工事費用は中国の銀行からTPDC(タンザニア石油開発公団)への融資で賄われる。野党8党連合(ただし、主要野党であるCUFとCHADEMAは入っていない)が組織して、郊外の村から約10kmを数千の人びとが行進したという。

 人びとは「バガモヨ新港、バガモヨ新工場、バガモヨにガス。ムトワラの人びとは何か悪いことをしたのか?」といったプラカードを掲げ、パイプライン建設に反対した。これは2009年、キクウェテ大統領が「ムトワラの人びとよ、石油化学ブームに備えなさい」という演説をしたことと現実が違って進行しだしたことへの抗議である。「ソンゴソンゴ島で起こっていることを見よ。ガスはダルエスサラームへ行き、島の人びとは貧しいままだ」と。「長年、サイザル麻、綿花、コーヒーといった換金作物が国の経済を引っ張ってきた。でもこの地域の農民たちには何もない」(南部にはわずかにカシューナッツがあるけど)。このデモ行進は最終的に抗議文をムトワラ州知事(政府からの任命)に突き付けようとした。しかし州知事は「無知な連中」からの抗議文の受け取りを拒否し、民衆と州政府、ひいては政府との関係が悪化したといわれる。

 さらに、1ヶ月後の1月25~26日にムトワラ州の各地マサシ県などの与党CCMの国会議員3名の家が焼き討ちされるというショッキングな事件が起こった。共に女性議員で、うち1人は現役の、もう1人は元大臣である。数十人の若者が襲ってきて、家具などを略奪した後、火をつけたという。またCCMのマサシ県事務所やマサシ地方裁判所も襲撃の対象になった。この事件で4人が死亡し、53人が逮捕された。また同じムトワラ州のネワラ県でも同時に襲撃事件が起こっている。

 国会ではただちに調査委員会を結成しようとしたが、ピンダ首相が直轄して調査することになった。キクウェテ大統領は恒例の月末の記者会見で「ガスはバガモヨへは行かない。ダルエスに行くのは16%だけで、84%はムトワラに残るから心配するな」と火消しに回った。バガモヨというのは新港予定地であるが、キクウェテの地元でもあり、地元への利益誘導を象徴しようとしている。ムトワラ選出の国会議員はCCMであるが、政府・党中央とは違う見解を持っていると報道された。

📷 焼き討ちされた与党議員の家 『Mwananchi』2013年1月28日号  5月に行われていた予算国会の最中である。ムトワラのバス・ターミナル(つまり人出の多い場所)の商店がシャッターを閉め、バスが消えるという事件が起こった。なんでも、エネルギー鉱山省の予算審議の日に暴動が起こるという。そんな待ち構えたように起こるものか、政府だってムトワラ市民をなだめるアメを組み込むに違いないと私は思っていた。しかし、やはり暴動は起こった。「5月17日の国会での大臣の予算説明に注目せよ」というリーフレットも配布されていたという。

 エネルギー鉱山大臣による予算説明は、5月22日午前だった。残念ながら、その日の午後のラジオ、夜のテレビ、翌朝の新聞には、「混乱、カオス」の言葉が躍ることになった。翌日も混乱は続き、妊婦が流れ弾に当たって亡くなったり、警官も死んだようだ。商店の略奪・放火、それに対する軍人・警官の関与、あるいはレイプも伝えられた。また政府系と見なされたジャーナリストも襲われた。3日後には力づくで鎮圧された。死亡者は政府発表では3人だが、人権NGOなどの調査では12人という数字が挙がっている。

 まず、大臣の予算説明を見てみよう。省の総予算は1兆1020億シリング。これは昨年度に比べ33.4%増。うち90%に当たる9,929億シリングを開発予算に投入する。うち5,583億が国内から、4,339億が海外からもたらされる。ムトワラ~ダルエスサラーム間のパイプライン建設自体はシリングに換算すると2兆シリングに上り、中国の銀行からの借款で、条件は7年間の猶予期間の後の1.5%利息の20年返済だとのことである。

 省としてこの天然ガスプロジェクトに対し630億シリングの支出が予定されているが、それはガスの液化プラントへの支出で、アメリカの会社が候補だという。ムトワラに雇用をうみだすだけでなく、電力供給により製造業のこの地域の投資に役立つと胸を張る。セメント工場、アメリカ資本の採掘機械の修理工場は既に建設されているという。また天然ガスの販売利益の0.3%はムトワラ、リンディ州に残り、社会サービス(学校、診療所、水、電気)に使われるし、若者たちはガス石油関係の職業訓練を受けられると語った。

 この大臣の地元への利益還元の演説にも関わらず、「予定通りパイプラインの建設は着工する」ということに対して暴動が起こった。200kmほど離れたナチングウェアの基地から軍が出動して鎮圧に助勢した。この出動の途中で車が横転して1人死亡したという。その後ムトワラは軍の駐屯下に置かれた。報道関係者も暴徒に襲われたという。民衆、特に女子どもたちは暴動を避けて、病院などにしばらく避難した。

📷 ムトワラで再度起こった暴動 『Mwananchi』2013年5月23日号  暴動後、逮捕されたのは90名あまりといわれる。軍による拷問(鞭打ち)が行なわれ、7月にはその傷跡を新聞のカメラマンにさらした。それはこの地域で強い野党CUFのメンバーが多かったようで、起訴されていた。ムトワラの町中の一般家屋に住んでいた警官やその家族は、報復を恐れ警官宿舎に移動したという。今回の一連のムトワラの事件のみならず、昨年来野党の強いアルーシャ、ムワンザ、イリンガなどの町での警察の暴行による市民の死亡事件が目立ち、警察の暴虐性・免責の問題が浮き彫りになっている。

 政府・与党はこの暴動はをまず「政治的な陰謀」と非難した。さらに一部野党も巻き込んで「外国勢力の陰謀が背後にあり、中国の支援・巨大な利権に対する反発だ」と。ただそれは根拠に乏しいように思え、一般に支持は少ないようだ。暴動直後にピンダ首相はムトワラに飛んだが、セメント工場が軌道に乗れば年間300万トン生産し、300台のトラックが全国からムトワラに集まり、1,000人以上の雇用が見込め、ほかにも50社が投資に関心を示しているといった利益誘導に過ぎなかった。

 それに対し、ムトワラ民衆、もしくはその代弁者と称する人たちの意見は次のようである。  「ムトワラや南部の住民は独立以来無視されてきており、政府の言うことを信用していない。これは独立運動に続く、第二の民主化の運動だ」  「ガス・パイプラインの問題で、政府はムトワラの住民がガスによる利益を全国民と分かち合わず、独占したがっているように歪めて宣伝している」  「天然ガスに関する契約の発表されているものに秘密の部分が多く、利益がどこに流れるのか不透明な部分がある」  「政府は民衆のサインを見逃した。ガス・パイプラインの問題だけではなく、交通警官の横暴やカシューナッツの生産者への支払いへの遅れなどで不満が鬱積していた」

 最近(6月~8月)の動きを簡単に追ってみたい。  5月末から6月初めにかけて野党3党4人が逮捕された。さらに6月8日ムトワラ・タウン選出の与党CCMの国会議員も逮捕され、起訴された。共に「示唆・扇動の罪」である。このCCM議員はアジア系なのだが、暴動直後のピンダ首相のムトワラ視察に州知事が同行したのに自身は同行せず、その理由を「私はこの選挙区の市民の代表である。被害を受けた政府の指導者の家を視察するだけではなく、被害を受けた市民の地域全部を見回るべきだろう。ムトワラの住民は雇用の保証もなく、外来者の姿が増えることを喜んでいない」と述べたと報道された。その時点で政府・与党の不興を買っていたと想像される。

📷 ダルエスサラーム港に下ろされるパイプ 『The Citizen』2013年7月14日号  アメリカの電気会社の巨人(GE)がムトワラに発電所を作るという報道があった。同じくアメリカのシンビオン電力(Symbion Power)会社との契約に6月20日調印した。来年初めからムトワラに400MWのガス発電所を建設を開始する。さらにソンゲアまでの送電線も建設し、タンザニアの全国配電網に接続するという。

 7月1日~2日にアメリカのオバマ大統領が、家族(妻子)や大勢のビジネスマンを率いてタンザニア訪問をした。今春タンザニア訪問した中国の習主席夫妻に対抗したのだろうか。しかし、オバマと同時期にブッシュ前大統領夫妻もタンザニアにいたし、さらに驚いたことにクリントン元大統領と娘も8月にやってきた。これだけアメリカの大物たちが続々と押しかけてくるというのは、援助から投資の時代に入ったというのを実感させる。

 6月には南部海岸だけでなく、北部のケニアにつながるタンガ沖にも天然ガスと石油の埋蔵が有望という報道があった。こちらの方は採掘調査中として英国の企業名があがっているが、ほかにもノルウェー、ブラジル、オーストラリア、アラブ首長国連邦などの企業名も並んでいる。

 7月中旬にはダルエスサラーム港に中国からのパイプが大量に荷揚げされ、いよいよパイプラインの建設が始まった。現在のところ衝突・襲撃事件は伝えられていない。ムトワラ、リンディの若者たちも雇用が増え、またお金も回っているからという説明で、少し拍子抜けの感もあるがホッとしている。

 基本的には植民地時代から続いてきたタンザニアの「南北問題」なのだろう。カゲラ、ムワンザ、アルーシャ、キリマンジャロなどの北部の諸州、標高が高くヨーロッパ人が比較的多く入植し、キリスト教が普及した地域は教育水準が高く、政府の役人の多数を占め、換金作物も個人所得も多い。それに引き換え海岸部、南部のイスラーム色の強いコースト、リンディ、ムトワラ州は教育も投資も遅れたままである。南部出身のムカパ大統領の時代にも劇的な変化は起こらなかった。今ムスリムのキクウェテ大統領の時期を逃したら、このまま取り残されるかもという共通した不安はあるのだろう。それを利用しようとする政治勢力の思惑はまた別の話である。

☆参照文献☆ ・『The Citizen』2012年12月28日、2013年5月18日、22~25日、28日、6月3日、10日、7月14日、20~21日号 ・『Mwananchi』2012年12月28日、2013年1月28日、2月14日、5月18日、22日~25日、28日、6月6日、9日号 ・『Daily News』2013年6月21日、23日号

(2013年9月1日)

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