根本 利通(ねもととしみち)
2014/15年度の暫定予算案は3月8日に発表された。昨年より半月早い。ドドマでは制憲会議をやっていてその話題で持ち切りだったから、ちょっと予想外だった。この後、紆余曲折があるのだが、まず昨年度の最終予算案と今回の暫定予算案とを比べてみよう。「2013/4年度予算案」を参照してほしい。
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暫定予算案の発表
『The Citizen』2014年3月9日号
まず、昨年度の最終予算案は、18兆2489億シリング(通常12兆5749億シリング+開発5兆6740億シリング)だった。3月に発表された暫定予算案では、総予算19兆9097億シリング(通常14兆6424億シリング+開発5兆2673億シリング)で、前年比9.1%増となっていた。通常予算の伸び、開発予算の減少が目を惹いた。
その歳入の内訳であるが、税収10兆9908億シリング(前年9兆8982億シリング)、非税収入7227億シリング(同7411億シリング)、地方政府収入3779億シリング(同3834億シリング)、借款・贈与3兆7720億シリング(同3兆8552億シリング)、商業的借入4兆463億シリング(2兆8478億シリング)となっていた。
しかし新聞の見出しは「予算の悪夢」ときわめて懐疑的であった。最大の背景は歳入欠陥で、税収の目標が達成できそうもなく、また海外からの贈与も見込んでいた1兆547億シリングから7037億シリングにとどまりそうだという。従って、この3月の段階で歳入は目標を大きく下回り、16兆7100億シリング、91.2%程度と見込まれていた。
中央政府の収入(税+非税)は11兆7136億シリングということだが、それでは通常予算の14兆6424億シリングをカバーできていない。税収の落ち込み原因は稼ぎ頭の金の国際価格の下落が挙げられているがそれだけではない。金輸出の減少にともない輸出額は85億1910万ドルと1.8%減り、一方輸入は石油製品の価格上昇で136億1690万ドルと7.4%増えているので、国の債務は増加している。
従って、新年度予算では新税、増税が予想されている。が、タンザニアの国民はそれにも冷やかである。3月4日に発表されたREPOAという調査機関による国民の税に対する意識調査は2,400人ほどを対象にしたものである。28%ほどが税金を払っていない。72%はどの税を納めるべきなのか分からない。86%は納税されたお金を政府がどう使っているかわからないと答えたという。つまり国税庁(TRA)の信用度の問題なのだが、国税の役人のほとんどが腐敗していると答えたのが38%、一部が腐敗しているが48%に上ったという。現在、日本の援助で徴税強化のプロジェクトが進行中であるが、透明で広い範囲の徴税制度に向かうように望みたい。
歳入不足で予算執行ができない例も挙げられている。自治地方政府省の例である。昨年度の予算割り当ては4200億シリングだったが、開発予算の43%、通常予算の76%しか執行されず、多くの開発プロジェクトは止まっているという。3月末までの年度が4分の3が終了した段階で、地方税収入は2130億シリングで見込みの74%ということだ。こういう状況で新年度の地方政府予算が増額されて4900億シリングなるというのは悪い冗談なのだろうか。そして地方に分配された少ないお金の20%は、地方役人の教育あるいは監督の不足で消えてるという。
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大雨季のモロゴロ州キロンベロ県の途絶した幹線道路
『The Citizen』2014年5月1日号
こういう状況であるから、地方のそれも幹線道路沿いでない地域のインフラ整備はたなざらしになる。主要道路、小学校、診療所などの補修・建設は遅れるから、今年のように大雨季にかなり降ると、簡易な橋は流され、道路が寸断され、陸の孤島が出現する。そこで病院や妊婦を運ぶのにムトンブィ(丸木舟)を使って、舟のなかで出産したり、手遅れになったというニュースが流れることになる。
延長されても与野党の対立で行方の見えない制憲議会が4月28日中断されて、5月5日から予算国会が始まった。各省毎に暫定予算案を発表し、国会で修正意見を受けて、本予算案にするための作業である。予算の多い省庁以外の日には、議員の欠席が目立った。また当初、昨年ムトワラ暴動の1周年に当たる5月22日に当たっていたエネルギー鉱山省の提案の順番を変更したなんていうエピソードも聞いた。
5月7日の暫定予算国会のなかで会計検査院総裁のウトウ氏の報告が出た。残念ながら、昨年あたりからウトウ氏の顔写真が新聞に載ることが多くなったような気がする。つまり会計検査でひっかかった疑惑がそれだけ多くなってきたということだろう。この報告に挙げられていたのは、産業貿易省貿易開発庁の公用車11台が登録されずに、私的流用されたらしいこと(評価額不明も、おそらく10億シリング)。電力公社(TANESCO)のコンサル会社などに対する不要と思われる支払い2720億シリング。港湾局による不適な油圧計8つの購入・放棄による24億6000万シリングの損失。農業部門開発計画、社会行動基金、水部門開発計画、保健バスケット基金による68億シリングの使途不明金。3300億シリングの開発計画に割り当てられた予算が使われなかったこと。16億シリングもの給与・保険が死亡したり退職した幽霊労働者に支払われていたこと。鉱山公社(STAMICO)による2280億シリングの、外国鉱山会社のライセンス料の徴収漏れなどであった。
国会で腐敗に関する議論の中心になったのはIPTL(独立電力会社)問題であった。TANESCOが買電しているIPTLを買い取ったと称するPAP(パンアフリカ電力)に対して、中央銀行が支払った1億2200万ドル(2010億シリング)の正当性への疑惑であった。その支払い疑惑は細かくは分からないが、英国大使がエネルギーセクターに英国が次年度援助を予定しているのが1770億シリングであることをのべつつ、疑惑の解明を求めた。それに乗じて野党が政府高官の関与などの徹底究明を要求し、「それだけの金があれば全国の小学生が床ではなく机と椅子に座れる」と主張した。鉱山エネルギー省の予算説明の日に副大臣は英国大使の声明を「内政干渉」と非難した。しかし、それに対して産業貿易大臣、外務大臣が否定・謝罪する声明を出し、政府内不統一をさらけ出した。これを旧宗主国との関係の微妙さと見なすことはできる。
しかし、天然ガスをはじめとした鉱産資源の埋蔵が確実になり、その開発、電力関係で大規模な汚職がささやかれていることは事実で、そのスキャンダルに絡んだ自殺(他殺説も)事件も発生している。天然ガスの産出にあまりにも過大な期待、バラ色の将来が描かれているのではないかと第三者としては不安になる。電気が全国に行きわたり、肥料工場など化学系の工業が発展し、かつ外国にガスの輸出で外貨も稼げるというような。私のようなマクロ経済の分からない人間がコメントすべきではないようにも思うが、外資による資源の流出、ごく一部の官僚層の腐敗、富の蓄積のような「資源の呪い」は避けてほしいと思う。
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予算案の発表
『The Citizen』2014年6月13日号
2014/15年度予算は6月12日に発表になった。昨年度の予算案、その執行状況と比較しながら数字を見てみよう。政府系の英語紙『Daily News』の見出しは「民衆を主人公にした予算」となっていたが、これに同意する人は少ないだろう。中立系の英語紙『The Citizen』は「ムクヤ(財務相)の入り混じった鞄」、スワヒリ語紙の『Mwananchi』では「節約予算、あちらこちらから叫び声」となっていた。発表日の為替レートを使うと、予算規模は1兆2000億円くらいということになる。
2013年の経済(GDP)成長率は7.0%ということである。2011年は6.4%、2012年は6.9%だった。IMFによれば、この数字はサブサハラ諸国で第8位、東アフリカではトップだとのこと。2014年の目標は7.2%である。一方インフレ率であるが、2013年4月の9.3%から今年4月には6.3%まで下落した。今年6月以降には6.0%以内に抑え込むのが目標という。
(1)歳出:19兆8533億シリング(前年度18兆2490億シリング=8.8%増)
・通常予算:13兆4082億シリング(前年度12兆5749億シリング=6.6%増)
・開発予算:6兆4451億シリング(前年度5兆6740億シリング=13.6%増)
うち海外援助:2兆0194億シリング(前年度2兆6921億シリング=25.0%減)
(2)歳入:19兆8533億シリング
・国内の税収および非税収入:12兆6365億シリング(前年度11兆5375億シリング=9.5%増)
うち、地方政府の収入:4585億シリング(前年度3835億シリング=19.6%増)
・外国からの借款、贈与、援助:2兆9416億シリング(前年度3兆8552億シリング=23.7%減)
・国内からの借款:2兆9552億シリング(前年度1兆6999億シリング=73.8%増)
・商業的借り入れ:1兆3200億シリング(前年度1兆1564億シリング=14.1%増)
今年度(2013/14年度)の歳入不足が指摘されている。予算案では歳入予定は11兆5375億シリングであった。しかし、次年度予算案発表の段階で、実際には10兆5801億に落ち込むと見込まれていた。1兆シリング近い不足で、達成度は91.7%となる。過去3年の予算案と実際の歳入を見てみると、92.9%(2010/11年度)、101.3%(2011/12年度)、93.0%(2012/13年度)となっているから、さほど大事件ではないのかもしれないが。
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予算案の財源
『The Citizen』2014年6月13日号
各省庁毎の予算であるが、昨年と同じように重点分野とされる6分野7省庁に配分が大きい。エネルギー鉱山、農業、教育、保健、水、インフラストラクチャー(建設省と運輸省)である。
まず、エネルギー鉱山省は1兆906億シリングの割り当て。うち2902億シリングが地方電化庁(REA)に、1510億シリングが建設中のムトワラ~ダルエスサラームのパイプラインの完成に、900億シリングがダルエスサラームのガス発電所の第1期工事に充てられる。
インフラストラクチャーであるが、総額2兆1090億シリングの割り当て。これは建設省と運輸省を合算した数字だろうか。うち1790億シリングが中央鉄道の修復、貨車の購入に、1兆4148億シリングが幹線道路と橋梁の建設・修復に充てられる。
農業省予算は1兆847億シリング。SAGCOT計画地域を含む灌漑インフラの強化。倉庫と市場の建設。食料・商品作物生産促進のためのローンの供与。農業研究機関の強化と農業普及員の育成、改良された種子、苗木の供給を通して、作物・食料の安定した供給市場を目指す。
教育省には3兆4651億シリングの割り当て。うち3073億シリングは高等教育のローンの財源となる。 教育環境の整備、機材の購入、教室・実験室の建設といったインフラの整備。さらに雇用機会の創出のためにVETAによる職業訓練の強化が挙げられている。
水省には6651億シリング。地方公共団体毎の10の井戸建設、ルヴ川下流のバガモヨからダルエスサラームへの水道管の建設などで、長距離・長時間の取水のための国民の負担を軽減し、安全な飲み水を供給するとする。
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『The Citizen』2014年6月13日号
保健省の割り当ては1兆5882億シリング。薬品の調達、感染病の予防、子どもたちの予防接種、HIVとマラリアの抑制など以外に、病院の建設・改修が挙げられている。予定は9州の病院で、カタビ、シミユ、ンジョンベ、ゲイタの新設4州が含まれている。
それ以外に「よい統治(Good Governance)」に5794億シリングが割り当てられている。これは制憲議会、国民登録証、2014年の地方政府選挙、選挙人登録の更新、2015年の総選挙の準備、腐敗防止などに充てられるという。
上記は財務大臣の国会演説をそのまま見てきたのだが、「よい統治」まで含めると割り当て予算総額は、10兆5821億シリングに達する。タンザニア中央政府には21省庁あり、それ以外の大統領府・副大統領府・首相府にも国務大臣がいるから、大人は全員で29人だと思う。上述の予算は地方自治省を含めて8省だけだ。ほかの国防省とか天然資源省、産業貿易省、外務省、財務省などそれなりに予算が必要だと思われる省は大丈夫だろうかと思う。労働雇用省とか地域開発・女性問題省とか情報・青年・文化・スポーツ省とかたくさんの名前を抱えた省庁は完全にマイナー扱いなのだ。
さらに見ていくと、通常予算のうち5兆3176億シリングは、給与・手当に充てられることになっている。通常予算の39.7%、総予算の26.8%は人件費なのだ。だから財務相の演説の予算で、学校や病院、水道管が建設されるということではないのだ。そういった建設費用は多く海外からの援助が大きな比重を占める開発予算によってなされるのだろう。しかし、海外からの援助による予算は前年度予算比23.7%減少だし、その前年度の執行率は71%程度に過ぎない。ドナー側も渋りだしているのだ。
ザンジバル自治政府の予算案について触れておこう。5月14日ザンジバル財務大臣オマリ・ユスフ・ムゼーによって発表になった予算案は、7088億シリングであった。連合政府の28分の1である。人口比でいえば、35分の1程度であるから妥当なのか否か。前年度は6585億シリングであったから、8.2%増加となり、連合政府の伸びとほぼ同じ。ただ、US$換算すると、伸びは3.7%程度に圧縮される。また脱税を防ぐために、本土と同じような電気によるレシート(FED)を導入するとしている。本土でもダルエスサラームのカリアコーや、地方のイリンガ、ムベヤなどでFED導入の反対のデモは起こったし、ダルエスサラームでもなかなかスムーズに機能していない。それを古来から税金は払わない伝統を持ってきた商人の町ザンジバルで導入に成功するか、興味深い。なお、一人当たりの国民所得は2012年の$656から2013年は$667にアップしたという。
☆参照文献・統計☆
・『Mwananchi』2014年5月3日、8日~10日、6月13日~15日号
・『The Citizen』2014年3月8日、9日、5月1日、7日~10日、12日、31日、6月12日~15日号
・『The Daily News』2014年6月13日号
(2014年8月1日)
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