根本 利通(ねもととしみち)
2012年8月に実施された独立後第5回の国勢調査の第1回報告集(行政区毎)「国勢調査2012年(2)」は2013年3月末に刊行されたが、9月末にそれに続く第2回報告集(年齢・性別の分析)「国勢調査2012年(3)」が出た。そして今回(2014年6月)第3回報告集簡約版(人口動態と社会経済的分析)が出たので、それを紹介したい。
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女性世帯主の比率
今回の報告集のなかで分析の対象となっているものは以下の項目である。
①世帯構成
②婚姻状態
③市民権および出生登録
④孤児状態
⑤国外居住
⑥識字率と教育
⑦最終学歴
⑧職業
⑨身体障害
⑩住居の状態
⑪住居の設備
⑫ごみ処理
⑬家具
⑭社会保障制度
⑮保健・衛生
前回と同じように私が興味深いと思った項目を見てみる。科学的な分析ではない。特に断らない場合は、統計はタンザニア全体のものである。報告書にはタンザニア全体、本土、ザンジバルと区別して数字は載っている。州毎に数字が載っている場合は、30州(本土25州、ザンジバル5州)である。
①(世帯構成)であるが、都市世帯が2002年の26.4%から33.3%に増加している。ザンジバルは45%。これは国全体の都市化傾向である。その世帯で女性が世帯主であるものが33.4%とちょうど3分の1を占めた。前回が32.7%と大きな変化はないが、世帯構成人数が7.3人と男性世帯主世帯の3.5人の倍あるのが目を惹く。ンジョンベ、シミユ、マラなどの農村州がその比率が高いが、キリマンジャロやアルーシャなど都市化が進んだ州でも高い。この背景は何だろうか?母系制社会?出稼ぎ率の高さ?離婚・非婚の日常化?、研究者の説明を待ちたい。
②(婚姻状態)では、15歳以上における統計である。結婚(51.1%)、未婚(35.5%)、同居(6.4%)、別居(0.9%)、離婚(2.9%)、配偶者死亡(3.1%)となっている。10年前と比べ未婚率が4%増え、男性の初婚年齢(25.8歳)は変わっていないが、女性のそれは(22.3歳)1歳高くなった。州別で見るとダルエスサラーム州が男女とも最も高く、次いでザンジバル都市西部州というように都市が高い。逆に低いのはルクワ、カタビ州である。
③(市民権)では、タンザニア国籍を持っているのが98.5%で、外国人が1.5%(66万人)だという。この外国人の数字は非合法移民・不法居住者などは把握されていないだろうから、実際にはもっと増えるだろう。外国人のなかで多い国籍はどこか?私はケニアだろうと思っていたが、あにはからんやブルンジがトップで23万3千人もいた。この人たちは最近(1993年)ではなく古い内戦(1972年)を逃れた避難民で、キゴマ州、ルクワ州などに定住している人たちが多い。タンザニア市民権取得か、ブルンジへの帰還の選択を迫られ、タンザニア市民権取得を選んだ人たちが多かった(16万人ほど)と2012年に聞いたが、この統計の数字にはその人たちが残っているのだろうか。2番手はコンゴ(民)で10万人、ケニアは3番手で5万9千人、次いでインド(4万1千人)、ルワンダ(2万5千人)、中国(2万3千人)、英国(1万9千人)となっていた。
これと比較できるのが⑤(国外居住)である。42万1千人、国民の0.9%となっているが、実際にはもっと多いだろう。というのは、この数字は国勢調査の訪問時に、その世帯に所属していた人間のうちの国外居住者を質問した答えの数字であるからである。ケニアの8万7千人が最も多く、次いでモザンビーク(4万人)、米国(3万8千人)、英国(3万3千人)、ザンビア3万2千人)、ウガンダ(3万1千人)となっている。
④(孤児状態)というのがどうして調査項目に入ってきているのかよくわからないのだが、「片親もしくは両親が亡くなっている状態」という説明がついている。全国平均は7,7%なのだが、断然高いのがイリンガ州(14.4%)とンジョンベ州(13.8%)という元は同じ州だった地域だ。そして隣のムベヤ州が第3位(10.8%)となっている。これはどうしてか、7~9人に1人が片親以上を失っているということなのだったら、やはり背景を考えてしまう。その場合、②の女性世帯主世帯のトップがンジョンベ州で、第6位にイリンガ州、第7位にムベヤ州があるのに気づく。女性世帯主第2位のシミユ州は孤児状態は平均以下だが、同率第2位のマラ州は孤児状態第4位(9.9%)なのだ。
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識字率
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就学率
⑥(識字率)は5歳以上と15歳以上の数字が挙げられているが、ここでは15歳以上の数字を見てみる。2002年の69.4%から2012年は78.1%に上昇した。男性83.4%、女性73.3%である。ザンジバルの平均は84.2%と本土より6%ほど高い。州別の数字は上図の通りだが、ダルエスサラーム州(96.1%)、ザンジバル都市西部州(93.1%)に次いで、キリマンジャロ州(92.2%)が第3位に入っているが、やっぱりなという感じである。一方タボラ州(59.0%)が最下位で、次いでカタビ州(65.7%)、シミユ州(66.7%)となっている。
⑥(就学率)が当然識字率に反映すると思われるので、就学率の地図は識字率のそれに似ている。この調査で示されているのは7歳~13歳の小学校学齢の子どもの純就学率である(超過年齢児童を含めた総就学率ははるかに高い)。就学率は10年前の69.1%から76.8%に上がっている。これは2002年から始まった初等教育開発計画(PEDEP)のおかげだろう。就学率でもザンジバル平均は85.9%と本土平均の76.6%より高い。州別ではキリマンジャロ州が94.1%でトップである。次いでウングジャ南部州(92.5%)、ザンジバル都市西部州(91.9%)、ダルエスサラーム州(91.6%)となっている。最下位はやはりタボラ州で55.9%、次いでカタビ州(57.3%)、ゲイタ州(62.2%)となっている。
⑦(最終学歴)は、対象人口が1,450万人ほどで、総人口の32.3%程度であることに留意しないといけない。未就学者、中退者が圧倒的に多いのだ。小卒(81.7%)、小卒後の職業訓練校卒(0.7%)、中卒(14.4%)、中卒後の職業訓練校卒(0.8%)、大卒など(2.3%)となっている。本土では小卒が83.3%なのに、ザンジバルでは中卒が79.2%を占めるのは教育制度の違いを反映している。
⑧(職業)では、農業が62.1%で圧倒的過半数、それ以外の第一次産業では畜産業2.4%、漁業1.0%。政治家・行政官・上級管理職が1.4%、専門職が1.6%、技師・準専門職が4.1%、吏員・会社員が1.0%でここまでがいわゆるホワイトカラーであろうか。その次に小企業経営1.0%、サービス業・商店従業員が5.8%、さらに露天商というのが3.1%となっている(これにマチンガは含まれているのだろうか)。さらに職人4.6%、工員・運転手1.1%となっている。最後に単純職(日雇い、肉体労働?)6.3%、その他4.6%とされている。
⑨(身体障害)では、視覚が1.93%、聴覚が0.97%、歩行が1.19%、記憶0.91%、自己始末(Self-care)0.74%という数字が羅列されているが、非常に多い。自己申告で近眼とか老眼が入っているのではないだろうか。アルビノというのが身体障害と扱われているのもおかしいと思うが、全国で16,477人という数字は少なすぎるように思える。
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電化率
⑩(住居の状態)は、まず自宅(所有)が74.4%、その他が借り家だが、家賃の支払いは自費、政府、会社、無料などばらばらである。建材はコンクリート(20.3%)、日干しレンガ(26.3%)、焼レンガ(26.3%)で、伝統的な材木と土も23.5%ある。床はあるのが40%、ない(地面そのまま)が60%。屋根はトタンなどの鉄製が65.4%、草葺きは25.4%。
⑪(住居の設備)で注目されるのは、電気・水道・トイレの有無だろう。まず、照明用に電気を使っているのは全国平均21.3%と依然少ないが(最大は灯油の58.2%)、これでも10年前のの調査では10.2%だったので倍増している。ここでは都会と農村の格差が歴然としている。都会の電化率は48.6%であるのに対し、農村部では7.7%に過ぎない。しかし、10年前にはわずか1.4%だったことを思えば急速に普及しているとはいえる。ザンジバル平均は42.9%と本土の倍の普及率である。州別だとザンジバル都市西部州が71.6%、ダルエスサラーム州が64.4%で抜けていて、第3位にキリマンジャロ州(30.4%)、次いでアルーシャ州(28.9%)となっている。最下位はルクワ州(7.0%)だが、その次にムトワラ州(7.5%)があるのに注目される。天然ガスの生産がもうすぐ始まるが、パイプラインでダルエスサラームに運ばれる。地元にとムトワラの人びとが大きなデモを昨年起こしたのは記憶に生々しい。
電気よりもさらに最低限の権利と思われるのは安全な水へのアクセスだろう。飲料用の水道へのアクセス率は36.8%で、10年前の34.4%から見て、電気と比べ伸びが遅々としているのが分かる。ここでも都市部が58.6%、農村部が26.0%と格差がある。ただ、この報告書では10年前の都市部の普及率が71.0%だったのが、今回は58.6%と落ちていることになっている。これはなんとしたことか?10年前の数字が間違いであればいいのだがそうでないとしたら、都市部への急激な人口の集中の結果、都市の給水能力が低下したということなのだろうか。ダルエスサラームで住んでいると、水圧の低下、断水の頻繁化、水道公社の無能・怠慢は実感としては分かるのだが。あるいは10年前との対象区域の違いか。つまり、10年前は農村部に分類されていた地域の都市化が進み、今回の調査では都市部に分類されているが、水道の普及はまだだという地域が加算されているのだろうか。
水と並んで衛生面で重要なトイレの有無である。さすがに何らかのトイレがある住居は92.0%であり、うち76.4%はいわゆるポットン便所であり、水洗は14.1%となっている。しかし、ここで注目されるのはトイレがないのが本土は7.7%なのに、ザンジバルは19.3%もあることである。特にペンバ北部州では52.6%、ペンバ南部州では42.1%と異様に高い。ペンバには半分の家にトイレがない!これは住宅構造の問題なのか、文化意識なのか、あるいは革命後の意図的な放置策(政治の問題)なのか?ペンバの住宅を研究している人に訊いてみなければ。ただ、ペンバの農村の家に滞在した人の家には、普通に屋外のトイレはあったというから、調査者の勘違いではないかと思われる。本土の農村の家でも普通は屋外にあるものだ。
⑫(ごみ処理)もなかなか考えさせる。定期・不定期を問わずごみの「収集がある」のは8.5%(ザンジバルは13.1%)。「焼却」が22.6%(ザンジバルは17.1%)。「埋める」が36.2%(ザンジバルは6.4%)。道路・ブッシュ・空き地に「投棄」が32.8%(ザンジバルは63.4%)となっている。もしこの統計が正しければ、ザンジバルの農村地帯はトイレとごみの問題を並べると、非常に非衛生で環境に悪いことになってしまうのだが。
⑬(家具)で多い順にいうと、鍬74.3%、携帯電話63.9%、ラジオ61.6%、自転車39.9%、炭アイロン20.2%、テレビ15.6%、電気アイロン10.0%となっている。バイクは5.0%、自動車2.6%、牛は9.2%、ろば・ラクダは3.1%である。家具とはいえないが、家屋の自己保有率は74.8%、土地・畑のそれは70.4%となっている。ザンジバルにおける土地の保有率は42.7%と革命があったにもかかわらず低い。
⑭(社会保障制度)は、いわゆる公的な健康保険・年金の加入率である。何らかの基金に加入しているのは12.6%となっているが、これには二重加入者もいるだろうから実際にはもっと低いだろう。もっとも高いザンジバル社会保障基金で13.6%、加入者数が最も多いのは国民健康保険で51万人(5.5%)である。公務員以外の一般のいわゆる国民年金制度であるNSSF(国民社会保障基金)ですら、加入者23万人弱(2.4%)に留まっている。これは制度の宣伝が行きとどかないためと説明されているが、一般国民は将来の年金を信用していない、あるいは単に掛け金を払う余裕がないように感じられる。加入者でも脱退して一時金を受け取り、必要な家の建築や子どもの学費に使い、また再加入することを繰り返している。
⑮(保健・衛生)が、6月11日の新聞の見出しとなっていた「公式声明:われわれはもう10年長く生きられる」。これはタンザニア人の平均寿命が、50歳(1988年)、51歳(2002年)から2012年では61歳に伸びたことを伝えたものだ。女性1人の出産数も6.5人(1988年)から、6.3人(2002年)、5.2人(2012年)と減った。乳児の死亡率も1,000人当たり115人(1988年)から95人(2002年)、45人(2012年)と大幅に減ってきている。出産時の妊婦の死亡率も10万人当たり578人(2004/5年)だったのが、432人(2012年)になった。保健衛生状況の改善は素直に嬉しい。
数字の羅列になってしまったが、備忘録とご理解いただきたい。ただ、何度か触れているが、タンザニアの統計に表れる数字をそのまま鵜呑みにするのは危険だ。国勢調査の家庭訪問を受けている身としては「そんな質問、訊かれなかったよなぁ」という項目もある。あくまでも参考値だろうと思う。実証的な科学にも想像の余地は必要なのだ。
☆主要なデータはタンザニア政府統計局(Natinaol Bureau of Statistics)のウェブサイトで検索できる。
☆参照文献☆
・2012Population and Housing Census(Basic Demographic and Socio-Economic Profile, Key Findings, 2014)
・2012Census Datebase "Basic Demographic and Socio-Economic Indicators"(National Bureau of Statistics)
・2012Population and Housing Census(Population Distribution by Age and Sex, 2013)
・2012Population and Housing Census(Population Distribution by Administrative Units, 2013)
・『The Citizen』2014年6月11日号
(2014年9月1日)
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