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相澤

Habari za Dar es Salaam No.153   "Uchaguzi Mkuu 2015 (1)" ― 総選挙の年が明けた ―

根本 利通(ねもととしみち)

 新年、明けましておめでとうございます。  2015年が皆様にとって、タンザニア、日本、世界にとって平和な年になりますよう祈念いたします。

📷 うわさの候補者 『The Citizen』2014年11月13日号  昨年(2014年)の初めから10月までのほぼ1年間、政治の話題をさらったのは憲法改正案だった。大揉めに揉めた憲法改正のための制憲議会を、主要野党ボイコットのなか、ほとんど与党だけで強引に修正して改正案を大統領に提出したのが、昨年の10月8日だった(「新憲法の混乱」参照)。

 その後、選挙管理委員会(NEC)が選挙人登録が間に合わない、来年の総選挙に導入する機械化の予算が足りないと、地方選挙と憲法改正案の国民投票の早期実施に難色をを示したが、12月の地方選挙は予定通り実施され、憲法改正案の国民投票を4月30日に実施することを与党が決め、野党の無力感が感じられた。

 もちろん野党は憲法改正を巡る合意に関して大統領の約束違反を非難し、国民投票で憲法改正案を否決する運動は起こすとしていた。また、憲法改正案をめぐって共闘して制憲議会をボイコットした4野党で結成したUKAWA(民衆憲法同盟)は、10月26日に協定を結び、CCMに対抗して統一候補を立てることを声明した。2002年に平和的に政権交代を実現したケニアの「虹の連合」の前例に倣おうとしている。

 しかし、与党CCM側は余裕で、今まではフライング禁止と言われて公然と出馬声明を出せなかった(それでも意思表明していた者は数人いたが)が、我も我もと意思表明しだした。大ベテラン、元首相たち、現首相、外相などの閣僚たち、CCM幹部など、本人は表明していなくても下馬評に上がった候補は15人に達した。あれだけ揉めて、最後は疑惑の2票差で可決された憲法改正問題は遠くになったように思わされた。

📷 世論調査で人気の大統領候補 『Mwananchi』2014年11月13日号  11月13日号の新聞で世論調査の結果が出た。Twawezaという民間の知識人を中心とするNGOで、教育問題などに積極的に発言している機関によるものである。調査実施は2014年9月、有効回答数1,445というから、さほど大規模な調査ではないようだ。2013年、2012年にも世論調査を実施している。ただし、ザンジバルを含まない本土だけの調査である。

 まず大統領候補の選択では、CCM候補47%、UKAWA候補28%、党ではなく人物が19%、わからないが6%であったという。個人名でいうと、ロワッサ(CCM元首相)13%、ピンダ(CCM首相)12%、スラー(CHEDEMA書記長)11%、リプンバ(CUF議長)6%、メンベ(CCM外相)5%となっている。2年前と比べるとロワッサは6%から伸び、ピンダは16%から、スラーは19%からそれぞれ落としている。スラーは2010年のCHADEMAの大統領候補で、キクウェテの次点だった。やや高齢ではあるが、もし野党統一候補を選べばという調査では41%の支持を受けていた。

 政党支持率は、全体の数字は新聞報道には出ていなくて、年齢層別3段階(35歳未満、35~50歳、51歳以上)に分かれているように見える。単純平均を取ると、CCM55%、CHADEMA26%、無党派9%、その他の野党7%、答えない3%となっている。51歳以上の層ではCCMは63%と強い支持を誇るが、35歳未満では44%で、CHADEMAの34%にその他の野党8%を加えると接近して無党派を争うことになる。

 現在の国会議員の2010年選挙での公約(複数)は、道路建設・改善77%、水プロジェクト64%、病院建設38%、教育25%+教室23%だったという。その選ばれた議員に再び投票するかという質問に対し、イエスが47%、ノーが47%と完全に拮抗していた。現在の国民の関心事は、貧困63%、保健衛生47%、教育38%という数字であった。

📷 野党の地方選挙の運動(ダルエスサラーム) 『Mwananchi』2014年12月5日号  10月初めに終了した制憲議会が、政府・与党による反則気味の押し切り勝ちで終わり、このまま総選挙に進むのかと思われていたが、野党はしっかり反撃の爆弾を準備していた。11月に爆発した「エスクロウ疑惑事件」である。3月にある新聞が報道した電力公社(TANESCO)と独立発電会社との契約紛争に絡んで、200億円の公金が不正に引き出され、それに関係省庁の大臣、高級官僚、法務長官などの関与が疑われたという大スキャンダルである。この経過については来月号に詳細に報告する予定だが、11月上旬の調査報告が提出され、その公開を巡って熾烈な駆け引きがなされた揚句に、下旬に国会で公表され、国民の耳目を集める大事件となった。

 このスキャンダル事件のためか、12月14日に予定されていた地方選挙への関心はかなり低くなった。選挙人登録でも、まわりの人たちはあまり登録していない。登録期間が短く(11月23日~29日)、かつ平日は16時までなので仕事を持っている人たちは登録に行けないような仕組みだと言う。首相府の地方自治担当の発表によれば、今回の登録選挙人数は1,149万人で、目標登録者数1,859万人の62%に当たる。この目標登録者数というのが曲者で、2012年の国勢調査による総人口4,493万人の41.4%である。そして、18歳以上の有権者人口(2012年8月現在)の2,242万人の51.2%に過ぎない。2年経っているから有権者数はさらに100万人以上増えていると思われるから、登録者は過半数に達していないのではないかと思う(2015年10月の総選挙時の見込み有権者総数は2,390万人)。

 カタヴィ州79%、カゲラ州78%など目標に対してそこそこの登録率を示した州もあるが、ダルエスサラーム州のそれは43%、次いでキリマンジャロ州は50%と低率だった。さらに県別でみるとタンガ州キリンディ県21%、キリマンジャロ州サメ県22%などがかなり低率であった。12月に入ってキャンペーンは始まったが、盛り上がりは低く、選挙につきものの騒動、暴力沙汰もあまり起こらないまま、選挙当日を迎えてた。ただ、アルーシャ、ムワンザなど野党CHADEMAの候補者が、書類不備などで失格とされ、与党CCMの候補者の無投票当選となった地区も多かったようだ。

 タンザニアの地方自治体は大きい方から州-県-郡-カタ(郷。英語ではWard)-町(ムター)・村-キトンゴージ(村区、部落。なお英語ではHamletという訳語が当てられていた)となる。今回の選挙の対象になるのはカタ以下で、カタは全国で3,802、村は12,423、ムター(町のなかの通りを中心とした街区)は3,741、キトンゴージは64,616という数字が挙げられている。私の住んでいるダルエスサラームのムターでは議長が選挙される。選挙ポスターには議長の下の議員(代表)も3~5人の候補の顔写真が出ていて、セットで選ばれるのかなと思っていたら、議長は与党、議員は野党という選び方も可能だという。

📷 地方選挙のポスター  翌日になっての新聞報道や投票に行った知人たちの話を聞くと、それなりに混乱、暴力沙汰はあったらしい。多かったのは地方で、投票箱・用紙が昼過ぎまで、あるいは全然届かないで1週間延期になったとか、投票用紙の党籍の表示ミスなんかもあったらしい。また即日開票されるのだが、ダルエスサラームでの開票作業中の夜に1時間停電があり、「あれは投票をごまかすために与党がやったんだ」という与党支持者もいた。また同じダルエスサラームだが、その地区(ムター)に居住していない人間が選挙人登録簿に載っていて投票するのを、野党支持者が見つけ揉めたという話もいくつか聞いた。

 投票が整然と行なえない、さまざまな事務的なミス、あるいは不正行為と思われるものなど、選挙に対する信頼性は低い。この選挙を担当した首相府の地方自治担当大臣は、翌日選挙管理のさまざまな不行き届きを謝罪し、「2019年のこの選挙は、選挙管理委員会に担当してもらいたい」と述べていたので、えっと思ってしまった。つまり、選管がやっていないのだ。しかし、考えたら、選管がやったら安心というわけでもない。地方の選挙立会は、同じく地方自治体の役人だろうし、そもそも中央選管は政府による任命人事で、独立した存在ではない。12月17日に選挙結果の暫定的(一部延期になった地区を除く)な発表があったが、その際に担当大臣は、混乱があった県の行政官(DED)のうち、6人を解任(ほかへ転任)、5人を停職、さらに6人を戒告処分にした。しかし野党は大臣自身の辞任を求めた。

 暫定結果では、与党CCMの当選者は2009年の12,042(村9,800、ムター2,242)から、9,406(村7,290、ムター2,116)に落ちた。一方、野党ではCHADEMAが2009年の413(村289、ムター124)から大きく躍進し、2,001(村1,248、ムター753)を取った。同じく野党のCUFはやはり前回の540(村407、ムター133)から、今回は1,181(村946、ムター235)と伸ばしたが、野党第一党の座からは滑り落ちた。それ以外の野党は前回39あったNCCRが8に落ち込み、その他の6党で21だった。ポストの占有率という観点でいえば、CCMは前回の92%から75%と落としたが圧倒的な多数派であることは変わらない。CHADEMAは3%から16%へ、CUFは4%から9%へとそれぞれ伸びた。この暫定結果の段階では延期になった選挙区数は不明だったが、発表された12,617人から考えると、残るは3,547もあるのだろうか?

 12月21日に延期になっていた地区の選挙がおこなわれ、新聞報道で知るかぎりはまずまず平穏だったようだ。12月24日段階での公式結果は下の表のように発表されている。実はまだ選挙ができなかった地区もあるので、最終的な数字ではない。CCMは村、キトンゴージでは79.8%を取ったが、町では66.7%だった。これを最初の地方自治体選挙が行なわれた1999年のそれと比較すると、CCMは村91.6%、キトンゴージ91%、町89.2%だったそうで、これをどう解釈するか。農村部では依然80%で圧倒的な支持だし、町でも衰えたとはいえ3分の2は押さえている。対抗する野党はまだとって代わるほどの力は不足とはいえる。

政党村キトンゴージムター議員合計CCM(革命党) 9,378 48,447 2,583100,444160,852CHADEMA(民主開発党) 1,754  9,145  980 18,52730,406CUF(市民統一戦線)  516  2,561  266  5,395  8,738NCCR(建設改革国民会議)  67   339   28   598  1,032その他の11政党  35   183   18  *  *合計11,750 60,688 3,875125,180201,493定員12,443 64,616 3,875  *  *              *新聞報道に従うと合計が合わない項目がある。

  断片的な報道だが、興味深かったのは、12月23日の『Mwananchi』紙の特集記事である。大統領選挙への出馬の意思表明している人たちの地元の地方選挙の結果比較である(延期分は含んでいない)。CCMのトップランナーと目されているロワッサ元首相の選挙区(モンドゥリ)では、CCMが62カ村全部、それも47カ村は無投票、236のキトンゴージも全部CCMで100%という強さを見せた。次いで強かったのは若手のマカンバ通信科学技術副大臣(ブンブリ選挙区)で、村は100%、キトンゴージは99%を押さえた。同じく若手のホープであるムウィグル財務副大臣(イランバ西選挙区)は、村97%、キトンゴージ94%を取った。大臣ムワドンスヤ(ルングウェ東選挙区)は、村91%、キトンゴージ89%、運輸大臣ムワケンベ(キエラ選挙区)は、村86%、キトンゴージ81%だった。それなりに大統領候補らしい実力を示したといえる。

 しかし、スキャンダルに見舞われた候補はどうか。前のエネルギー鉱山大臣で辞職したンゲレジャ(センゲレマ選挙区)は、村82%、キトンゴージ76%とまずまずだったが、センゲレマの町のムターでは33%しか取れなかった。さらに今回のエスクロウ疑惑の主役の一人となったティバイジュカ土地大臣(ムレバ南選挙区)は、村で41%、キトンゴージで45%しか取れず、批判が強いことを示した。本人は大臣を罷免された後、選挙区に乗り込んで「これからも選挙区民のために、特に教育に尽力したい」と演説をぶっていた。一時は大統領候補にも擬せられたが、議員として再選されるためのCCMの予備選すら危ぶまれている。

 一方有力野党(CHADEMAとNCCR)の指導者の出身地キリマンジャロ州はどうかと見てみると、村ではCCM68%、CHADEMA25%、NCCR5%、キトンゴージではCCM69%、CHADEMA23%、NCCR7%、ムターではCCM51%、CHADEMA49%となっている。CCMがなんとか過半数を確保しているが、キリマンジャロ州は登録率がダルエスサラーム州に次いで低かったことを思い出す。

 この地方自治体の選挙に大きく影響を与えたと思われるのは、前述のエスクロウ疑惑事件である。12月17日に法務長官が辞表を提出した。22日にキクウェテ大統領により土地大臣が罷免され、23日にエネルギー鉱山省次官は停職処分になった。これは地方選挙でのCCMの落ち込みの趨勢を見て、小出しに処分を進めた気配がある。エネルギー鉱山大臣は依然調査中とされる。10月の総選挙に備えてどう立て直すか。

📷 投票所に並ぶ人たち(ダルエスサラーム) 『Citizen』2014年12月15日号

 毎回総選挙の年には混乱が見られるザンジバルであるが、すでにかなり波乱含みである。長年のライバルCCMとCUFが現在連合政権を作っているが、憲法改正案の評価について真っ二つである。大統領以下のCCM出身の閣僚は改正案に賛成であるが、第一副大統領以下CUF出身の閣僚は国民投票への反対運動を表明している。もはや一つの政府の形態をなしていないといえる。昨年10月の改正案の採決の際にも疑惑の投票があったが、ポイントはザンジバルが握っている。つまり、ザンジバル側で反対票が過半数に達したら、この改正案は否決されるということになるのだ。ペンバ島に強固な地盤を誇るCUFは、ウングジャ島でもある程度の進出を果たしそうで「次はCCMは野党に回る番だ!」とCUF側は盛り上がる。

 主要野党が憲法改正問題で同盟を組んだUKAWAは、総選挙では対CCMで統一候補で戦うことを声明していた。この地方選挙でも調整の努力は行なわれ、一定程度成果を上げたと思われる。しかし地元レベルで出馬準備を進めてきた人たちで調整がつかなかった例も多いようだ。来る総選挙で、UKAWA対CCMという構図になるのか、あるいは野党が従来のように分裂してCCM一強体制が続くのか、あるいはCCMが大統領候補選出で分裂して三つ巴になるのか、まだ見通せない。

 すべてはタンザニア国民の選択であり、外国人がとやかく言うことではないのかもしれない。しかし、宗教、民族、出自などで非難する傾向が出てきているように感じるのは私だけだろうか。気をつけないと、アメリカでもヨーロッパでも日本でも、そして東アジアでも偏狭なナショナリズムを煽り、妥協しないことが決断力ある指導者像であると誤解されるような風潮が出ている。彼らを見ていると共通しているのは歴史の教訓に学ばないという姿勢だろう。政治とりわけ外交というのは妥協の技術なのではなかったか。デマゴークを選ぶのも民主主義なのだ。しかし、タンザニアは独立以来、内乱もクーデタも経験しない平和な国としてやってきた。その歴史・経験から来る知恵を生かしてほしいと切に願っている。

☆参照文献☆  ・『The Citizen』2014年11月13日、19日、12月12日、14日~18日、21日、22日、24日、25日、27日号  ・『Mwananchi』2014年10月19日、11月13日~16日、12月2日、5日、12日、14日~18日、20~26日号  ・『Daily News』2014年12月14日~18日号

(2015年1月1日)

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