根本 利通(ねもととしみち)
2月12日に「マグフリの100日」という特集を組んだ新聞がいくつかあった。私が読んだのは『The Citizen』『The Daily News』『Mwananchi』の3紙だったが、ほかにもあったのかもしれない。『The Citizen』と『Mwananchi』は同じ新聞社(MCL)の英語紙とスワヒリ語紙で、取材源はほとんど同じなのだが、記事を書く記者あるいはコラムニスト、評論家の違いで論調が微妙に異なるのがおもしろい。
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100日目、支持率90%
『The Citizen』2016年2月12日号
MCLによる2月1日~7日に行なわれた世論調査(本土とザンジバルで1,200人、その内訳は不明)で、90.4%という非常に高い支持率を示したという。女性が特に93.1%と高く、男性は88.0%だった。都市部は88.2%だが、農村部(地方)では91.5%であった。年齢層でいうと、46~55歳グループが92.4%と最も高く、36~45歳グループが85.1%と低かった。地域別では南部(ムベヤ、ルヴマ)で96.9%という高率を示し、北部(アルーシャ、タンガ)は80.0%と低かった。注目のザンジバルでも86.4%と高かったが、これはウングジャ島だけの調査とされる。
低いといっても80%を超えているから、高い支持率あるいは期待である。調査では項目毎のものもあり、「法の支配とよい行政」「言論と情報の自由」「メディアへの友好性」「東アフリカ共同体を含む国際的対応」「経済成長と失業対策」「汚職と経費の不正支出対策」などでも高い評価が出ていた。ただ、「ザンジバルの政治情勢」に関しては、わずか34.4%が支持、48.8%が不支持、16.8%がわからないと回答している。
内閣に対しても調査が行なわれた。マグフリ大統領によるマジャリワ首相の指名は90.2%となっている。内閣の大臣の人気投票のようなものをおこなったのだろうか、1人1大臣を選んだのか、19人の大臣の合計100%のうち、ルクヴィ土地住宅居住開発相が13.1%が第1位だった。活発な不法登記の土地収用が評価されたのか。第2位はンダリチャコ教育科学技術訓練相で11.4%。国民の関心の高い教育問題に果敢に向かう姿勢が評価されたのか。第3位はムワリム保健社会福祉ジェンダー老人子ども相で10.2%と、マグフリ政権となって新聞記事に大きく取り上げられた省庁の各新人大臣が入った。ちなみに最下位はムウィニ国防相であるから、これはいいことかもしれない。
11月5日に宣誓・就任してからの11月中の足取りは「マグフリ政権の船出」でお伝えした。財務省、ムヒンビリ病院の訪問から始まり、綱紀粛正・汚職撲滅・経費節減という強い姿勢を示し続けた。12月9日の独立記念日も式典を中止し、国民の清掃の日とし、大統領以下政治家、政府役人が総出で掃除をした。それは環境に対する意識向上のキャンペーンであったが、式典用に予算化されていた40億シリング(約2億2千万円)を、ダルエスサラーム市内道路の延伸に充てるという経費節減の意思表明でもあった。その道路工事はすでに始まっている。その後のダルエスサラーム市内の清掃状況であるが、ペットボトルが散らばりが少し減っただろうかという程度である。ポイ捨て文化をなんとかしないといけないだろう。
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独立記念は清掃の日
『Mwananchi』2015年12月10日号
その後、12月10日に内閣を組閣し、15人の大臣、15人の副大臣を任命した。その際に4つの重要閣僚(公共事業、財務計画、天然資源観光、教育科学技術)が未定で、その4人を補充し、かつもう1人副大臣を追加して、最終的に内閣が完成したのは12月23日、就任から48日も経過していた。キクウェテ政権の60人の内閣に比べて35人と、だいぶスリムになった。省庁の統廃合も行なわれるから、高級官僚のポストは減るだろう。
大統領就任直後に打ち出した「公務員の海外旅行禁止」はかなりインパクトがあった。この100日間で70億シリング(約3億8千万円)節約したという。大統領が首脳会議などに出席しないのは外交の停滞を引き起こすという批判に対しては「国内で汚職とか麻薬取引・密猟などが行なわれている国は国際的にも信用されない。国内の火事が優先で、外交はその延長である」と、前任の二人の大統領が外相出身だったことを挙げ、「国際関係は良好」としている。これは公務だけではなく、私用での海外渡航も許可制にしたから、例えば妻子がいる英国でクリスマス休暇を考えていた大学教員が行けなかったという話も聞いた。
やはりこの100日間の最大の話題は汚職摘発だろう。そのターゲットになったのは、ムヒンビリ病院に始まり、港湾公社(TPA)、国税庁(TRA)、出入国管理局、鉄道資産管理会社(RAHCO)、航空管理局(TCAA)、国民身分証明書公社(NIDA)の各総裁・局長や運輸省次官、県書記など枚挙にいとまなく、その過程で汚職防止のための特別局である汚職防止対策局(PCCB)の総裁も罷免されてしまった。2月12日までに152人の高級官僚が罷免もしくは停職処分になったという。それ以降も、鉄道(TRL)、航空(ATCL)、医療倉庫局(MSD)、高等教育学生支援機構(HESLB)、放送局(TBC)、新聞(TSN)、公務員カレッジ(TPSC)と告発の手は伸びている。2月25日段階で16の公社・機関の総裁が不在で、代行になっているという報道があった(このなかでは召喚され、空席となっている英国・イタリア・日本の大使3名分を一つと計算している)。
それはその機関の管轄大臣が手柄を競うように告発しているからでもあるような様相なのだが、それだけ汚職が多くの政府機関に蔓延、日常茶飯事化していることでもあろう。こう語った年配の人がいた。「1970年代、ニエレレの時代は公務員倫理が厳しかったから、賄賂要求が表に出ることは少なかった。ないことはなかったけど、それは便宜を図ってくれたことに対するささやかな謝礼という感じで、チャイだった。時代は代わったのよ」。ニエレレの理想主義に触れたことのない若い世代は、周りを見て自分だってと思うのだろうか、今はチャイでは済まないようだ。2月にも不法滞在で没収された中国人10人のパスポートを、$6,000で返還しようとした33歳の出入国管理官(女性)が逮捕されたとニュースになった。
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汚職摘発の結果
『Mwananchi』2016年2月18日号
この汚職の摘発の結果、「これだけのお金があれば」という記事もあった。マグフリ大統領の就任以来105日間で、不必要な支出や脱税が2,450億シリング(約132億円)摘発されたという。これはタンザニア政府の今年度(2015/6)予算のほぼ1%に当たり、商工省、土地省、社会福祉ジェンダー子ども省という3省合計の予算に匹敵するという。舗装道路を50km、教室を6,000+机714,286、トラクター3,125台、診療所83、救急車167台をすべて賄えるという計算が出ていた。もっともエアバス2機でもいいとおまけがついていたが。
2月4日の法の日の挨拶で、マグフリ大統領は、列席した最高裁長官(タンザニア本土とザンジバル)を前に、司法批判をぶった。用意されていたスピーチではなく、自分の言葉で話しだしたらしい。いはく「司法は汚職撲滅の戦いに協力的ではない。400以上の脱税の裁判が遅れて進行中であり、巨大な汚職スキャンダルに関与した人間が自由に歩いている」と。例として、2010年の象牙密輸事件に現行犯で捕まった犯人の捜査がまだ進行中であると挙げた。行政による司法への介入と取られないように、「私は独裁者ではない」と断ったようだが。5日後、財務省は「これは賄賂ではないが」として、司法への開発予算123億シリングの支出を発表した。これは2015/6年度の当初予算の割り当ての満額執行である。ちなみにその前年度は8%、前々年度は18%、3年前は22%の執行率だったという。
一つ陰りがあるとしたら、ザンジバル問題の行方だろう。ザンジバル自治政府の大統領と議員はまだ決まっていない。昨年10月25日の総選挙で、連合政府の大統領、国会議員、地方議員選挙と同時に投票されたのだが、10月28日にZEC(ザンジバル選挙委員会)が「様ざまなイレギュラー点があった」ため無効を宣言したまま、宙に浮いている。ザンジバル大統領、議員たちは改選されないまま居座っていて、法的な正当性を疑問視する見方もある。
2月8日に開催された新年恒例の大統領官邸でのシェリー・パーティーに大統領は欠席し、外相がホストを務めた。これはザンジバル問題をめぐって関係がやや微妙な外交団と、その話題を話すのを避けたのではないかという憶測が野党側から流された。これは本当かどうかは知らない。ただその数日前にノルウェー大使が、ザンジバルのCUFのオフィスを訪問したというニュースが流れ(ノルウェー大使館は「大使館員がザンジバルのCCMとCUFオフィスを訪問しただけ」と否定した)、外交団と政党関係者や議員との会談を許可制にするというルールが発表された(1月28日)。
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ザンジバル問題の行方
『The Citizen』2016年1月13日号
ザンジバルの再選挙は3月20日と発表されている。昨年の総選挙の立候補者以外は立候補できず、かつ立候補の取り下げも認めず、選挙運動も禁止ということだ。主要野党であるCUFはボイコットを正式に表明し、昨年の選挙に参加した12党のうち計9党が同調した。ZECの2名の委員も反対を表明して、泥沼化している。マグフリ=CCM政権の公式見解は「ザンジバル憲法上、ZECは独立した機関である、その決定には連合政府大統領は介入できない」というもので、事実上ZECの決定を容認している。CCMの長老を含め識者には「危機を避けるために、連合国軍最高司令官としての介入」を求める声もある。
ザンジバル問題は別として、少なくとも本土ではマグフリの政策への反対は今のところ少ない。汚職撲滅、経費節減に表だって異論のありようがない。さて、汚職を摘発し、脱税を防ぎ、税収を増やし、財源を確保した後は、自慢の「実行力」の問題となる。教育、医療、水、電力、道路など様ざまな基礎インフラの課題はこれからで、実行すればすぐ解決というようなレベルにはほど遠い。さらには、経済成長、失業の解消という課題が大きくのしかかる。順調にGDPは伸びてきていて、2015年の速報値は7.2%ということだが、2016年はどうなるだろうか。従来利権に関与してきた層の反撃はあるだろうか。
タンザニアの抱える問題を列挙することにあまり意味はないと思うから、ここでは教育の問題を見てみよう。マグフリ政権の打ち出した政策のなかに、「教育の無償化」がある。これは総選挙中に野党連合(UKAWA)が言いだしたのを引き取った形でもあるが、今年の1月から新年度が始まる公立の小学校(7年制)と中学校(4年制)の授業料と寮費が無料になった。寮費には食費も含まれるからこれは大きい。政府の財源が間に合うのか。それ以外の寄付強制も原則禁止だが、寄付自体は禁止しないとされている。今まで保護者の寄付に頼ってきた部分は、教室の机や教員の宿舎の整備、学校の夜警雇用などに充てられてきたが、保護者のなかには教員の給与補填に充てられているという不満が強く、寄付には懐疑的な部分もあった。過渡期なので各地で混乱があるようだ。
それでも「教育無償化」のインパクトはあり、全国で1,337,000人の小学校新1年生が登録したという。昨年度の数字は発表されていないが、2013年のそれは139万人(公立)だったから、さほどの変化はない。ダルエスサラーム州でも68,111人の登録者数だそうだ。これは4,500人ほどの増加らしい。地域、とくに郊外では見込みより100人近く増えた学校もあり、ダルエスサラーム州知事は461教室不足と言っていたが、これはすでに過密になっている教室を適正化したいための方便だろうか。ムベヤ市では、児童数が85%増えたという報告もある。政府は教育無償化の予算として1370億シリング準備してあるといっているが、果たして。
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小学校の教室
『Mwananchi』2016年2月2日号
2月18日、中学校(4年生)の修了試験の結果発表があった。今年(2015年試験)は過去2年(2013~14年)の採点方式を元に戻すということで少し揉めていたから、発表が遅れるという情報もあったが、例年通りであった。3年前の2013年2月に発表された中学校卒業試験の結果で不合格率が60%を超え、国中が大騒ぎとなり(「昨今の中学教育事情」参照)、その年の10月に採点システムを変更して2年間行なったのだが、今回は元のシステムに戻したという。
合格者数は272,947人で、受験者数に対する合格率は62.9%(67.5%という報道)。昨年度(2014年)は69.7%、2013年度は58.3%、大きく社会問題化した2012年度は43.1%(ただし、採点基準修正前は39.3%)だった。男子の合格率は71.1%、女子のそれは64.8%。ディビジョン1は2.8%、ディビジョン2は9.0%、ディビジョン3は13.6%で、高校など上級学校への進学資格者は25.3%(21.9%ではないかと思われる)。中卒の資格をもらえるディビジョン4での合格者は41.0%だと思われるが、合格者数とその割合の数字が新聞報道ではどうしても合わない。タンザニア教育省および国家試験評議会(NECTA)のHPを覗いても、正確な数字は載っていないように思われるので、数字はあくまでも参考までとしたい。ちなみに科目毎の合格率では、数学が16.8%ともっとも低く、スワヒリ語が77.6%と高かった。
さて、発表された成績優秀校トップ10はすべて私立校であった。ここ数年(あるいはもっとか)同じ傾向が続いていて、トップは3年連続カゲラ州の男子校、その前は3年連続ムベヤ州の女子校だった。新聞に名が載るとその学校は宣伝になるし、生徒たちもやる気になるだろう。「教育はカネ」という風潮が背景にある。10校のうち、ダルエスサラーム州とその郊外のコースト州が4校、カゲラ州とムワンザ州というヴィクトリア湖地方が4校で拮抗した。それ以外はムベヤ州とキリマンジャロ州が1校ずつである。ダルエスサラームにはそれだけ資力のある保護者が多いだろうが、それ以外の州も教育に投資する先進州だろう。
逆に、最下位は今年もリンディ州の中学校だった。3年前とは違う学校だが。それ以外に下から10校のなかにモロゴロ州が4校も入ってしまい、話題になった。それ以外は、アルーシャ、タンガ、コースト、ダルエスサラーム、ドドマ州各1校である。すべて公立校で、かつコミュニティ立(州―県ー郡の下のKata=郷)だろうと思われる。小学校の再無償化による全入運動(2002年~)の波及による中学校の拡充計画に伴って創立された学校である。コミュニティ(村)の自助努力で校舎を作れば、政府が教員を派遣するシステムだ。教室、教員宿舎などの施設や教員の数が足りずに苦労しているようだ。
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中学校卒業試験の結果発表
『The Citizen』2016年2月19日号
公立校の凋落は甚だしい。公立校のトップはアルーシャのイルボル中学校の第53位であった。ニエレレなど多くの政治家を輩出した名門校タボラ・ボーイズ中学校は何と第124位。2014年の結果は、公立校ではやはりイルボル中学校がやはりトップで第35位だったという。3年前にはトップ20のなかに公立校は2校入っていたから、さらに落ち込んだということだ。イルボル中学は独立前からの名門校で、今回も男子の成績優秀者のトップ10に2人の生徒を送り込み、気を吐いていた。
イルボル中学を含めて、公立7校が小学校修了試験成績優秀者を優先的に受け入れる「才能特別枠」が実施されているのだという。タボラ・ボーイズ、タボラ・ガールズ、ムズンベ、キバハなどの地方名門校である。しかし、歴史を誇る名門校は、その分校舎などの老朽化の問題を抱えているという。「才能特別枠」で入学しても、教育内容に物足りず、私立校に子どもを転校させた保護者の談話も載っていた。私立の進学校は、優秀な教員に車や住宅のローンを提供しているという。公立校の教員には給与の遅配が日常化していて、ノルマとしての授業をこなすだけの意欲がない状態では、私公間の格差の拡大は、小手先の改革では変わらないだろう。
今回のニュースで話題になったのは、成績優秀者の第2位に中国人の16歳の少女が入ったことだろう。彼女は10年前、6歳のときに両親(父親は技術者)と一緒にタンザニアに来て、ダルエスサラームのトルコ系私立小学校に入った。今回はその中学校在籍での受験で、11科目受けてスワヒリ語だけがB評価だが、ほかの科目はすべてA評価だったという。巷の話題となり、新聞のインタビューを受けていた。スワヒリ語はもちろん、授業用語の英語も初めて習ったのだろうと思うと、その努力には頭が下がる(トルコ語も学んだらしいが)。
弊社のスタッフのアレックスの故郷のルカニ村は、農村滞在ツアーやコーヒー・スタディー・ツアーの訪問地である。そこに村人たちの自助努力で、コミュニティ立(前述)の中学校が2007年開校した。村人たちは教員宿舎などに苦労しながら、コーヒーのフェアトレード・プレミアムにも支えられて少しずつ施設を拡充してきた。昨年は日本政府の草の根無償援助も受け、理科実験室や図書室などの多目的棟も建設された(「ルカニ村便り」、「ルカニ村フェアトレード・プロジェクト」など参照)。6年前から卒業生を出しているが、成績はやはり不振であった。今年の結果は、76人の受験生で合格者は40人(52.6%)、うちディビジョン2で1人、ディビジョン3で3人合格したという。慌てずに着実に進んでいってほしいと思う。
「公立校はこれからどうやって立て直すんだろうか。マグフリは一般の貧しいタンザニア人のためにと言っているから、公立校に優秀な教師が赴任するように給与を大幅アップするのかな。実験室や図書室の設備も改善しなければいけないし」という私に、ある年配のタンザニア人は「公立を無償にしたから生徒数が増えるから、払える人は私立に行ってもらうようにしたいのかもしれないよ」と答えたので、口あんぐりであった。それでも「教育の無償化」の支持率は現在のところ90%と高いようだ。
☆参照文献☆
・『The Citizen』2015年12月10~11日、24日、2016年1月13日、2月3日、12日、14日、17日、19~20日、26日号
・『Mwananchi』2015年12月10~11日、24日、2016年1月13日、2月2日、12日、14日、18~20日、26日号
・『Daily News』2016年2月12日号
・『The East African』2016年2月13~19日号
(2016年3月1日)
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