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Habari za Dar es Salaam No.172   "Bajeti 2016/17" ― 2016/17年度予算 ―

根本 利通(ねもととしみち)

 2016/17年度の暫定予算案は4月19日に発表され、その後国会での審議を経て6月8日に本予算案として上程され、6月20日可決された。昨年の予算案と比較しながら見てみよう。昨年の予算案については、「2015/6年度予算案」を参照してほしい。

📷 予算案の発表 『The Citizen』2016年6月9日号  6月9日の政府系の英語紙『Daily News』の見出しは「成長に向けた民衆の予算―歳入増加、工業ブーム、ドナー依存の減少が焦点」となっていたが、これはどうだろうか。中立系の英語紙『The Citizen』では「緊縮予算」、スワヒリ語紙の『Mwananchi』では「ムパンゴ(財務相)眉をしかめる」となっていた。しかし、昨年度の予算案が22兆5千億シリングであったから、今年度の予算案の29兆5千億シリングは、単純に比較すると31.1%の伸びとなり、到底「緊縮」とは言えない。この間のUS$=Tshの為替レートの下落は約10.6%ほどで、US$換算しても18.6%程度は膨張している計算になる。

 2015年の経済(GDP)成長率は7.0%で、2016年の目標は7.2%という。これは昨年の報告と全く同じ数字である。6.9%(2012年)→7.0%(2013年)→7.0%(2014年)と来ていて、サブサハラ平均が3.7%というから依然優等生扱いなのかもしれない。しかし、2015年後には、現在の一人当たりGDP($900ほど)を$3,000に押し上げて、中所得国家入りを目指すためには成長率を8~10%に乗せたいようだ。

 マグフリ大統領にとっては初めての予算案であり、汚職撲滅・綱紀粛正を目指す政権がどうやってそれを経済成長に結び付けられるか、注目の予算案だった。以下がその数字だが、前年度との項目の違いがあり、比較が難しいところがある。

(1)歳入:29兆5396億シリング(前年度比31.3%増)  ・国内の税収および非税収入:18兆4635億シリング(前年度比31.9%増)   うち税収:15兆1051億シリング(前年度比22.2%増)   うち非税収入:2兆6930億シリング(前年度比142.0%増)   うち地方政府の収入:6654億シリング(前年度比27.5%増)  ・外国からの借款、贈与、援助:5兆7012億シリング(前年度比145.5%増)  ・国内からの借款、商業的借入:5兆3743億シリング(前年度比13.0%減)

(2)歳出:29兆5396億シリング  ・通常予算:17兆7191億シリング(前年度比6.9%増)   うち債務返済:8兆シリング   うち給与・賃金:6兆6000億シリング   うちその他:3兆1191億シリング  ・開発予算:11兆8205億シリング(前年度比99.7%増)   うち国内収入:8兆7027億シリング   うち外国財政:3兆1178億シリング  ★歳入欠陥:GDPの4.5%  ★対外債務:209億4000万US$(2016年3月現在。2015年6月の196億9000万US$から6.34%増)

📷 閑散とした国会 『Mwananchi』2016年6月4日号  優先分野として掲げられているのは、①経済成長と工業化を推進するための介入、②経済発展と人的資源の結合、③ビジネス環境の整備、④効率性の達成である。この目標を達成するために政府は、官民パートナーシップ(PPP)を通して民間部門の工業その他の投資のために魅力的な環境を作り出す。投資やビジネス遂行上の問題点、障害を克服するために、年間国家開発計画の達成を目指して、強化・監督・評価に努める、としている。

 各省庁・分野毎の予算を見ると、運輸5兆4700億シリング(25.4%)=うち道路建設2兆1800億シリング、鉄道再建2兆4900億シリング、教育4兆7700億シリング(22.1%)、保健1兆9900億シリング(9.2%)、農業1兆5600億シリング(7.3%)、電気1兆1300億シリング(5.3%)、水1兆200億シリング(4.8%)が重点配分を受けている。この数字は、対外債務返済分を抜いた実質予算比である。

 昨年増税されなかったビールその他のアルコール・ソフト飲料、タバコといった嗜好品はすこしずつではあるが増税され、逆にガソリン・軽油は据え置きだった。またMペサなど携帯を使った送金への課税、従来免税だった大統領や高級官僚、国会議員の退職金にも課税されるようだ。まだ軍人が享受していた免税ショップでの購入特権も廃止されるという。

 マグフリ就任以来の、公務員の海外旅行や式典やパーティーの制限、退職・死亡した公務員「空気のような役人」を洗い直す作業なども続けられ、無駄遣いをなくすという意味からは緊縮財政といえる。減税の方は最低賃金クラス(月給170,000シリング)の所得税が昨年11%に下げられたが、今年はさらに9%に下げられた。VATの免除を大幅に減らす方針だが、今まで広範な免除に支えられて成長してきた観光業への打撃が懸念される。

 今回の予算案でのほかの特色としては、汚職対策への予算が大きく盛られたということだろう。汚職・経済犯罪裁判所の創設に25億シリング、汚職対策局(PCCB)に723億シリング、会計検査院(CAG)の活動に447億シリングの予算がつけられている。マグフリ大統領の断固たる姿勢を示すものだろう。また近年大きな問題となっている土地問題(農耕民と遊牧民、村落と保護区、投資家と住民など)に対応するために、土地補償基金50億シリング、130億シリングの土地区画整備事業費や88億シリングの調査機材購入費が計上されている。

📷 トゥリア・アクソン副議長 『The Citizen』2016年6月9日号

 今回の国会の審議の過程の特徴は、野党がほとんど論戦に参加しなかったことである。これにはトゥリア・アクソン国会副議長(女性)の存在が大きいように思われる。アクソンは昨年11月17日マグフリ大統領によって指名され国会議員となり、あれよあれよという間に19日にはCCM推薦で野党統一候補に勝って副議長に選出された。ちなみに国会議長は前国会で5年間副議長を務めていたドドマ州コングワ選出4期目の議員であるンドゥガイである。ンドゥガイ議長は、この間(半年ほど?)インドに治療のために行っていて不在だったから、国会の議事進行はアクソン副議長が仕切ることになった。

 アクソンの経歴をみてみよう。ダルエスサラーム大学法学部を卒業後、法律事務所で10年ほど働いた後、2004年に修士号取得、2007年にはケープタウン大学で博士号取得。その後、ダルエスサラーム大学法学部で教員となり、最後は法学部長を務めた。専門は社会保障、労働、野生動物管理、遺言・信託、不動産管理、プロジェクト財政、鉱山法など幅広い。

 アクソンが政治の舞台に登場したのは、昨年9月9日、キクウェテ前大統領に第16代司法副官に任命された時である。いや、これも司法公務員のナンバー2になっただけだから、政治の舞台とは言えないかもしれない。しかし、アクソンは10月25日に行われた総選挙で「政党の代理人は投票所から200m以内に近寄ってはいけない」という選挙規則を弁護した。

 11月13日まだ司法副長官という公務員のままで、CCMに国会議長の候補指名を求めた。そしてそれを撤回して、マグフリ大統領権限で国会議員に指名されるや、副議長指名を求め、CCM推薦で野党統一(CUF)候補を250票対101票という大差で破り、選挙で選ばれたのではない議員がタンザニア憲政史上初めて副議長になったという顛末である。CCM側の強い意向が感じられる。

 この副議長と国会の野党陣営との軋轢が目立つようになったのは1月の国会からである。野党の議員が次々と、議場から警吏による強制退出、倫理懲罰委員会による出席停止の憂き目に遭いだした。トゥンドゥ・リス、ジットー・カブウェ、エスター・ブラヤ、ハリマ・ムデー、ゴッドブレス・レマ、ジョン・ヘチャなど、エスクロウ・スキャンダルや制憲議会で活躍した論客たちが多い。きっかけは1月に国民の中で人気であったテレビによる国会実況中継を禁じたことなのだが、放送は今も停止されたままで、法案審議の情報は制限された感じである。この後に来るであろう憲法改正案の審議再開に備えているのだろうか。野党陣営は副議長による国会運営を批判して、何回かボイコットあるいは国会周辺でのデモを繰り返したが、有効な抗議行動にはなっていないようである。

📷 副議長に抗議する野党議員たち 『Mwananchi』2016年6月21日号  今回、かなり話題(国会内ではなく)となった観光業へのVAT(18%)課税についてみてみよう。観光業は国際価格の下落した金に代わって、タンザニアの外貨獲得のトップ産業である。GDPの17%程度を占めている。2014年は189億ドル、2015年は204億ドルを稼いだ。同じような観光資源を持つお隣の観光先進国ケニアに遠く引き離されていたのだが、ケニアが治安の問題を抱えていて漸減傾向にあるのに対し、タンザニアは順調に伸びて訪問した外国人数でほぼ並んだところだ。

 いはばタンザニアのドル箱なのだが、今まで優遇されていた観光業にVAT課税を導入するという。ホテル、ロッジの宿泊費にはすでにVATが含まれていたが、今回は国立公園入園料、ガイド代、ゲームドライブ代、水上サファリやバードウォッチング、観光客のチャーター機代(ビジネス客のチャーター機代には既に課税されていて、観光客であることを証明するのに揉めることもあった)などにもVATが課税されるという。

 具体的には、セレンゲティ国立公園の入園料が大人$60だったものが$70.80になった。ンゴロンゴロ保護区は昨年4月に見送った値上げ($50を$60へ)を実施したうえにVAT加算なので、大人の入園料$50が$70.80に、クレーター・サービス料は車1台に対して$200だったものが$295となった。家族4名で3泊4日のセレンゲティ、ンゴロンゴロのサファリをする場合、$400~500アップになることになる。またキリマンジャロ登山の場合入園料だけで5日間で$63アップで、ガイドその他のサービスにも課税されるので、登山コース・日数にもよるが、1人あたり$150~250アップになる。

 7月に入って、フランスそしてEUなど29か国の海外旅行業者の協会(ECTAA)から、財務大臣と天然資源観光大臣宛にVAT導入の3か月延期を願うレターが出た。いはく、「いきなりの値上げは顧客の理解を得られないし、ヨーロッパの法律で顧客保護のため、値上げは半年前に通告しないといけないとされている。ケニアや南アなどの同じような内容の目的地に比べ、タンザニアはすでに7%ほども割高になっている。このままでは目的地の変更を顧客に勧めざるを得ない」と。タンザニアの観光客は過半数がヨーロッパ諸国からだから、大きな圧力になるだろう。一方のケニアは観光客数の減少に対応するため、この7月からの国立公園入園料へ昨年導入したVATの撤廃、値下げをしたのに対し、好対照になってしまった。

 担当の天然資源観光大臣はジュマンネ・マゲンベで、昨年は水大臣として国会で罵倒を受けたことは記憶にある。今年も予算国会前に野党の女性議員から「ティッシュのように薄っぺらい」と暴言を受け話題になった。キリマンジャロ州ムワンガ選出のベテラン議員で、大臣も歴任している実力者のはずなのだが。7月観光客の予約キャンセルが相次ぎ、ジャーナリストにケニアとの比較を訊かれてこう答えたという。「ケニアはタンザニアではないし、タンザニアはケニアの植民地ではない。タンザニアは自分の国の発展のための課税を自分で決める。ケニアがそう(VAT撤廃)したのは、それなりの理由があるだろう。ケニアの観光客は4年間で200万人から130万人に減ってきている。タンザニアはその間80万人から120万人に増えているんだ」と。

 こういう放言は所轄大臣としてはいかがなものか。国家としての大方針は譲れないとしても、観光業は国際的な常識にも拘束されるだろう。特にタンザニアの場合は海外からの旅行客が、観光収入の圧倒的シェアを占めている(国内観光客はまだまだ微小である)のだから。財政再建のため、課税の可否は国家の主権としても、TATO(タンザニア旅行業協会)などの関係者の反対を押し切って、7月1日実施とは拙速に過ぎたのではないかと思う。日本からタンザニアの野生動物サファリに来る場合、国際航空券を含め大変な費用が掛かり、思い立ってすぐ来られるようなもんではない。1年~半年前から計画を立て、予算を立て、受け入れ業者と合意してやってきたのに、いきなり値上げしましたではタンザニアに対して不信感を持つ人もいても不思議ない。やはりこういう値上げは十分な(少なくとも半年程度の)予告・周知期間があってよかったのではないかと思う。

 ザンジバル自治政府の予算案については今年も詳しい新聞報道は見つからなかった。これは意図的なのだろうか。ウングジャ島とペンバ島が霧の彼方にあるようだ。

  ☆参照新聞☆ ・『Mwananchi』2015年11月20~21日、2016年4月20日、6月4日、8~13日、21~24日、7月4日、9日号 ・『The Citizen』2015年11月18日、20~21日、2016年4月20日、5月31日、6月8~13日、20~23日            7月6~7日、9日、14~15日号 ・『The Daily News』2016年6月9日号 ・『The East African』2016年6月11~17日号 ・「Tanzania Budget 2016/2017」(www.fbattorneys.com 2016年6月9日)

(2016年8月1日)

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