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Habari za Dar es Salaam No.179   "Elimu ya Siku hizi" ― 最近の教育の動向 ―

相澤

根本 利通(ねもととしみち)

 中学校4年の国家試験の結果が発表になって、タンザニア中が騒然となったのは2013年2月18日だった。不合格者が過半数、60%を超えたのだ。その後の話はこの「通信」の第134回に書いた(「昨今の中等教育事情」)。さらにその後の経過をまとめておこうと思いつつもう4年も経過してしまった。その間に中学校の修了試験制度の再変更もあった。2016年に行われた高校修了(Form6)、小学校修了(Standard7)、中学校修了(Form4)の試験結果の報道を見ながらまとめてみたい。大学などの高等教育、幼児教育、そして特殊教育にも問題は山積みだが、今回はもっぱら初等・中等教育を中心に見ていきたい。

 マグフリ現大統領が2015年11月に就任してからも大きな変革が行われた。「マグフリの100日と教育」で少し触れたが、大きなポイントは中学校教育の無償化だったろう。無償化といっても、小学校修了試験に合格しないといけないので、義務化・全入とは違う。ただ、小学校の全入の復活、中学校への進学奨励から、教室・教員の不足などが話題には事欠かない。

📷 高校修了試験の結果発表 『Mwananchi』2016年7月16日号  2016年7月15日に高校修了試験の結果が発表された。新聞の見出しは「公立と私立学校、競り合う」となっている。近年、各種の試験結果では圧倒的に私立校が上位を独占していたが、今回の結果では上位10校のうち6校を公立校(うち国立は5校)が占めたのだ。ニエレレが卒業したタボラ・ボーイズを始め、キバハ、ムズンベ、イルボルなどの植民地時代からの名門校が入っている。これは政府がForm4試験の成績優秀者を、「才能特別枠」として名門校に優先的に割り振った結果なのだろうか。その一つのイルボル高校の校長は学校としては9位、成績トップ10に1人入ったのだが「トップ10を独占するつもりだったのに残念」とインタビューに答えていた。

 しかし、今回の最大のニュースはトップ校に、アルーシャのコミュニティ立(正確には郡=Tarafaの下の行政単位であるKata=郷による運営である)キシミリ高校がなったことである。この学校は創立が2002年、スイスの援助を受けてNgarenanyuki郷の村人たちが始め、その後政府から教員を派遣してもらったという公立でも条件の悪い学校である。生徒40人、教員4人(うち教員資格を持っているものは1人だけ)で始め、現在は教員32人を擁し、文系理系の2コースを教えている。近隣のミッション系私立学校の教育法を学んだり、模擬試験でディヴィジョンⅣだった生徒たちを特訓し、その生徒たちは本番の試験ではディヴィジョンⅡを取らせたというような努力の結果という。

 NECTA(タンザニア国家試験評議会)発表の数字を伝える新聞報道では(例によって微妙におかしいのだが)、次のような数字らしい。受験登録者74,996人(女子37%、男63%)、実際の受験者73,940人、合格者71,551人(96.8%)、うちディヴィジョンⅠ~Ⅲの合格者(大学など上級学校への進学の有資格者)66,635人(93.1%)。成績の下位の10校も発表されていて、うち7校がザンジバルという予想通りの結果だった。ただ、ダルエスサラームの公立名門校であるアザニア高校がリストに載ってしまい、責任論など大きな論議が学校内で巻き起こされたらしい。ダルエスサラームのほかの公立伝統校も定員過剰、理科系の実験室不足の問題を抱えているようだ。

 2016年10月27日に小学校7年生の修了試験の結果が発表された。受験者数789、479人で合格者数は555,291人(70.3%)で、この数字は2015年と比べ2.5%アップしたという。合格者の男女比は男49%、女51%となっている。科目毎の合格率を見ると、スワヒリ語76.8%(前年77.2%)、英語36.0%(前年48.5%)、社会76.7%(前年61.9%)、算数46.6%(前年49.5%)、理科76.1%(前年72.1%)となっている。

📷 小学校修了試験の結果発表 『Mwananchi』2016年10月28日号  この結果を報じた『Mwananchi』紙の見出しは「小学7年生の驚きの結果」となっている。その内容は、シニャンガ州カハマの町の小学校が成績上位者に1~3位を含め、7人も送り込んだことだ。クウェマ・モダーン小学校というその学校の特集記事が5日後に載った。その校長Mathayo氏は教員だったが、1995年に自分の学校を始めたという。たった8人だった1期生の生徒が2002年全国成績7位に入って名をあげ、その後は成績上位者に送り込む学校の常連となっていた。生徒の健康に気遣うこと、宗教心を大事にすることを挙げながら、7年生は試験が終わるまで親元に帰さないで特訓しているようだ。保護者は地元だけではなく、全国トップの子どもの親はキゴマ州在住とのことだ。

 成績上位10校にはダルエスサラーム州の私立学校4校、クウェマともう1校がシニャンガ州から入り、他はムワンザ州、キリマンジャロ州、カゲラ州、モロゴロ州から各1校ずつだった。一方で、最下位10校というのも記事になってしまう。毎年、リンディ州とかムトワラ州とか、南部海岸でムスリムが多い地域の小学校が名指しされるのだが、今年はモロゴロ州の学校5校が上がってしまった。ほかはタンガ州2校、アルーシャ州、マニヤラ州、シミユ州各1校ずつとなっている。

 最も注目を集める中学校4年の修了試験の結果は1月31日に発表になった。今年は早い目に年内(12月中)にも発表すると言われていたが、結局1月末になった。それでも2016年は2月18日は発表だから早くはなっている。中学生がエリートだったのはもう昔の話で、今は中学校を出てやっと就職戦線に参加できる。都会では中卒は最低線で、親はそのために高い金を払っているのに、この最後の修了試験で失敗したら中卒を名乗れないのだ。

 新聞報道によれば(例によって数字が合わないのだが)、登録者数は408,372人(女51.3%、男48.7%)で、合格者数は277,283人で合格率は70.09%ということだから、それに基づけば受験者数は395,610人前後ということになる。合格者の男女比は男51%、女49%で、合格率は男73.3%、女67.1%となっている。合格率そのものは昨年より2.6%アップした。合格者のうちディヴィジョン1~Ⅲの高校進学有資格者は96,018人で、うち女子が39,282人、男子が56,736人となっている。これが27%ということなのだが、母数が不明だ。ディヴィジョンⅠが3.0%、Ⅱが8.4%、Ⅲが15.6%というのが推定数字だ。中卒資格が得られるディヴィジョンⅣが42.8%となっている。

📷 中学校修了試験の発表 『The Citizen』2017月2月1日号  科目毎の合格率は、スワヒリ語77.8%、英語64.3%、公民48.9%、歴史48.1%、地理51.2%、物理44.8%、化学59.2%、生物55.7%、数学18.1%、商業40.1%、簿記49.7%となっている。数学が断然低いのはいつものことだが、物理、化学は今年は健闘したのだろうか。

 成績上位の学校は、フェザ・ボーイズ(ダルエスサラーム)、セントフランシス・ガールズ(ムベヤ)、カイゼレゲ・ジュニア(カゲラ)などの常連の私立中学がトップ10を占めた。公立校は入っていない。一方の最下位から10番には、ダルエスサラーム州から6校、ほかはコースト州、キリマンジャロ州、リンディ州、アルーシャ州各1校となっていた。

 今回初めての試みなのか、州別の成績一覧も出ていて、ンジョンベ州が1位、イリンガ州が2位、3位がカゲラ州で、4位が予想外にキゴマ州、5位がキリマンジャロ州、6位がムワンザ州と発表されていた。この成績の順位の付け方がよくわからない。受験者に対する合格者の割合なのだろうと思うのだが、そうするとンジョンベ州は89.14%、イリンガ州は89.16%で微妙に逆転してしまうのだ。またカゲラ州は81.46%なのだがキゴマ州は83.41%なのだ。ディヴィジョンを数字化するというような複雑な計算をしているとは思えないので、どこかに数字の打ち間違いがあるのだろう。

 さて、試験の結果の数字を追ってきたが、実際にどういう問題が起こっているのだろうか。やはり大きなのは、生徒数の増加に伴う教室、机などの施設、そして教員数の不足とその待遇だろう。小学校全入運動の結果、昨年の小1登録者数はその前年の1,028,021人から1,896,584人に増加したという。その結果、机が140万不足し、全国各地で机の寄付運動が展開され、その贈呈の写真がよく新聞に載っていた。また教室建設のためにブロックを運ぶボランティア活動も「ウジャマーの復活」とか紹介されたりした。教室の現有数が10,204で、不足数が137,949となると不足数は半端ではない。また教員宿舎の不足も69,220とされている(2016年11月現在)。教育部門への予算配分は2016/7年度予算では22.1%と優遇されているはずだが、支出が遅れているのだろう。

 屋外で授業する青空教室とか、床に座って授業を受ける子どもたちの写真が繰り返し、新聞を飾る。年末には州によっては、小学校修了試験に合格した生徒が教室が足りないために進学できないというニュースが流れ、ダルエスサラームやアルーシャという大都市を抱える州が深刻なようだ。ダルエスサラーム州では63%、アルーシャ州では82%(アルーシャ市では50)だけが進学できるという数字が躍る。ムワンザ、モロゴロ、ドドマ州などは大丈夫らしいが、ソングウェ、キゴマ、マニヤラ、リンディ、ムベヤ、カタヴィ州でも公立中学校の教室が足りないという。年明けて実際に新学年が始まる時期になって、一方では都市部の私立中学校の空きが話題になった。公立中学校の無償化政策のあおりを受けたのだ。

📷 足りない教室 『The Citizen』2017年1月17日号  教室数が足りないということは、教員数が足りないということでもある。教師と小学校児童の比率は1:54という数字があるが、これは古い数字だろう。ダルエスサラームの公立小学校では、70~80:1が当たり前で、100人を超える児童を受け持っている先生もいるようだ。

 この過程で「教育制度を劣化、学力を低下させた」とムンガイ元教育相への批判が起こった。ムンガイはニエレレ政権からキクウェテ政権まで国会議員・大臣を務めた人で、ムカパ政権時に教育相(2000~05年)を務めた。2002年から小学校の教育制度改革・全入化(PEDP)が始まり、就学率が59%(1999年)から95%(2005年)にアップしたことを自分の功績としている、しかし一方でカリキュラムの改訂で、小学校における算数・英語の重視、農業・技術・商業の軽視や、中学校1~2年における物理・化学を科学として統一するなどを行った。この改訂が学力の低下につながったという批判がある。この流れの延長で2007年から中等教育改革(SEDP)も始まり、現在に至っているのだが、児童・生徒数の増加に教室・教員の数が追いつかなかったということで、ムンガイ一人の功績や責任に帰すべきことではないだろう。

 教科書も大きな話題となった。教育カリキュラムの改訂が遅れ、検定教科書というのがなく自由競争で各出版社が内容不統一のまま教科書を販売しているのがここ25年の現状であった。それが12月初めに、民間出版社の教科書が「間違いが多すぎる」という理由で禁止され、タンザニア教育協会(TIE)発行のものに統一する政令が出た。1月の新学年を控え、在庫を多く抱えた出版社は当然非難するし、一部の教育コンサルは支持した。TIEは1月31日までには小学1年~2年の教科書は配布できるとしていたが、その用意した教科書にも初歩的なミスが見つかり、TIEは弁明に大わらわだった。そして、2月現在、小学1~3年生は教科書なしで授業しているという。

 高等教育に奨学金制度も大きく揺れた。大学などの高等教育機関に学ぶ学生には政府の奨学金が与えられるのが普通である。私が在学していた1984~6年のころ、学生は授業料・寮費・食費・図書費・帰省費用だけでなく、月々のお小遣いまで与えられる厚遇ぶりであった。大学は2校しかない限られたエリートであったからだろう。大学が30数校に増えた今、さすがにそれはないとしても、奨学金を当てにして進学を目指した学生は多いだろう。奨学金を得て卒業した学生からの返還が滞っている、幽霊学生を水増しして大学職員が懐に入れている、大学入学資格の疑わしい学生が入学しているなどの事実が相まって、奨学金の支給が一時停止され、大きな悲鳴が上がった。その後資格審査を厳しくして一部支給が始まっているが、昨年の新入生58,000人のうち、奨学金を得たのは25,000人前後とされる。

📷 ルカニ中学校と生徒たち

 さて、子どもを育てるタンザニア一般の、庶民と呼ばれる人たちはどう対応しているのだろうか。 

 最後におまけだが、ちょっと嬉しいニュースを付け加えたい。1月31日に発表になった中学修了試験の結果で、われらがルカニ中学校がかなり健闘したのである。2007年1月の創立以来10年目、卒業生としては7期生だと思うのだが、初めてディヴィジョンⅠという最高ランクの成績を取った学生が2人出たのだ。ディヴィジョンⅡは1人、ディヴィジョンⅢは12人で、ここまでの合計15人が、高校などの上級学校進学資格者ということになる。ルカニ中学からの受験生は51人だったから29.4%となり、全国平均を少し上回っている。さらに中学修了資格の取れるディヴィジョンⅣは28人で、合格率は84.3%となりこれも全国平均を上回っている。不合格者(ディヴィジョン0)は7人だったそうだ。

 キリマンジャロ州で279校中83位。全国で3,280校中855位で(40人以上受験の学校・施設のうち)、私立とか伝統ある公立学校に混じって、歴史が浅く施設や教員数の揃わないコミュニティ立(上述)のなかではかなり健闘しているんじゃないかと思われる。ルカニ中学校の創立以来の流れは「ルカニ村・フェアトレード・プロジェクト」のHPや「ダルエスサラーム通信」第177回「村の図書館」などを参照してほしいが、日本の人たちとのつながりのなかで成長してきた学校であるから、素直に嬉しい。今後も少しずつ進歩していってほしいなと思う。

☆参照文献☆  ・『The Citizen』2016年7月16~17日、9月2日、4日、9日、10月28日、30日、11月1日、8日、12月5日、9日、30日号    2017年1月4日、7~9日、17日、28日、30~31日、2月1~2日  ・『Mwananchi』2016年7月16~17日、26日、9月13日、10月28~29日、11月1~2日、13日、20日、12月1日、27日号    2017年1月30~31日、2月1~2日号  ・『The Daily News』2017年2月1日  ・NECTA HP

  ※筆者急逝のため、未完成部分あり。 

(2017年3月1日)

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