根本 利通(ねもととしみち)
10月20日過ぎからダルエスサラームには強い雨が降るようになった。大雨季のような降りが2~3日あり、それ以外はパラつく程度だが、空はどんよりとして雨季の気配である。タンザニアの気象庁も小雨季入りを宣言した。10月下旬からと言うのはほぼ「例年並」である。「例年」というのが最近は当てにならないのだが、ともあれ「例年並」ということで、雨量の少なかった大雨季の分を取り戻せることになるのだろか。
タンザニア(東アフリカ)で「アスカリ(Askari)」というと、職業という意味ではやや広い範囲になる。兵士、警官、ガードマン、夜警などなど。制服を着ているか否か、公権力を持っているか否かは異なるが、何となく共通にイメージは分かるだろう。ちなみにダルエスサラームの中心にあるアスカリ・モニュメントは第一次世界大戦にイギリス軍兵士として従軍した兵士像である。
さてアスカリというのは一般には民衆に好かれる存在ではない。洋の東西を問わず、権力機構の末端に所属し、民衆との接点にあるわけだから、好かれるというのは難しいのだ。タンザニアは軍が厚遇はされているが、クーデターその他がなく表面には出ないので、軍とのトラブルは余り聞かない。軍の車両が交通法規を無視して暴走するのに眉を顰める、あるいは事故を恐れて車間距離を広く取る程度である。
やはり社会主義時代のなごりで、大人は、IDカード(身分証明書)の携帯を義務付けられているから、警官に夜間不携帯で捕まって殴られたり、賄賂を要求されたりという話はよく耳にする。泥棒、強盗の横行にも余り有効な対策にはなっておらず、皆自衛の方策を立てているから、警官の評判は総じて悪い。
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さて事件が起こったのは、今年の9月18日の夕方5時半ころである。最近はダルエスサラームでも朝夕の交通渋滞があり、我が家からオフィスまで15分で行くところを、家を出るのが10分遅れるだけで、1時間かかることもある。雨が降り出すと途端に渋滞が悪化する。その日の夕方の渋滞が今日はヒドイなと思うと、近くの交差点(三叉路)の信号が消えている。停電だ。そういう時は交通警官が立って交通整理をするのだが、その姿が見えない。そうすると皆力ずくで突っ込むから、混乱状態になっていく。仕方ないので少し遠回りをしてと迂回したが、全く進まない。海岸通りを行ったのだが、普段15分で行くところを1時間半もかかってしまった。
その日は気がつかなかったのだが、停電で各所で信号が消えているにしてはちょっと酷かった。交通警官がどこでも整理をしていなかったのだ。気が付いたのは翌朝の出勤時。交通警官の姿は見えるのだが、どこでも路傍に立って同僚同士のおしゃべりをしていて 仕事をしていない。朝の渋滞が酷かった。交通警官のストだなと思った。給与の改善とか、そういう要求かと思われた。ところがオフィスについて新聞を読んでもそのことは 出ていないし、他のスタッフもよく分かっていない。2日目の夕方の渋滞も続いた。信号はついていても同じことだった。海岸通りは2車線なのだが、反対車線を逆走する車が続出し、全く進まない状態になった。3日目も同じだった。
3日目に分かってきた原因は次の通りであった。「交通警官が朝夕の渋滞時に交通整理をやるが、その判断が悪いために却って渋滞が酷くなっている。あれなら交通整理をしない方がましだ」と国会で議論され、それに抗議するためのサボタージュだというのだ。国会で出た意見は、日ごろ私が思っていたことだから喝采と行きたいところだが、 この渋滞はどうしたことか。交通警官はストではなくて路上に立ってはいるのだが、渋滞を解決しようとはせず、彼らが動くのは渋滞で衝突事故が起こった時と、VIP(大統領や首相)が通る時の交通整理だけだ。
結局、交通警官のサボタージュは3日間続いて終わった。渋滞は日常のほどほどの状態に戻った。彼らの実力を見せ付けられる結果となった。一説には交通警官の一部が賄賂に絡んで配置転換をされた抗議であったというものもあった。どちらにせよストではなく巧みなサボタージュであったといえる。
交通警官とはタンザニアで運転していると、特に私の会社はレンタカー会社でもあるから、日常的に接する。ダルエスサラームでの一方通行の取り締まり、駐車違反、信号無視、地方に行くとスピード違反、各種整備違反、免許証の違反など、何かと嬉しくない場面で接する。もちろん違反している場合は仕方ないのだが、明らかにたかりと思われるこじ付けもある。私が自分の会社を運転しているだけで捕まる。つまりレンタカー会社の車は日本でいう 二種免許を持っていないと運転してはいけないという、レンタカーというものを想定していなかった時代の交通法規の適用で、さすがにダルエスサラームでは外国人によるレンタカー使用が溢れ返っているから何もないが、地方に行くと断固として取り締まりの対象になる。従って私が会社名義にした自分の車を運転していくと捕まる。悪法というより時代に適応出来ないでいる法律でも法律なのだ、という遵法精神で取り締まっているのなら、ある程度は納得できるのだが、あくまで個人の小遣い稼ぎというのが明々白々なので、やや厳しいやりとりをすることになる。どの国でも警官は難しい立場にいるのだ。
(2003年11月1日)
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