根本 利通(ねもととしみち)
ラマダンが明けて日常が戻った。ラマダン中が平常でないというのではないが、ダルエスサラームの人口の半分以上がムスリムだし、弊社のオフィスのスタッフも運転手も半数はムスリムで、断食をしているから、 仕事の割り振りにも気を遣う。ラマダン中は休暇を取らせてあげたいところだが、運転手の半数を休ませるほど暇ではなく(暇だったら恐ろしいが)、やむを得ない時には長距離の出張にも出てもらう。サファリ中には断食を止めてもいいのだが、大体の者は断食を続けるので、2台で出張する時はクリスチャンとムスリムの運転手を組にして出し、お客さんには1人の運転手が断食中であることを告げ、それとなく配慮をお願いするのだが、宗教心の薄い日本人には「そんなことで仕事が勤まるのか!」と思う人もいるのか、 夜中3時ころまで使う人もいて、1日1食になってしまったりして頑張った運転手の中には、その後でマラリアになって倒れたりする。断食が明けて数日経つが、まだ出てこない運転手が出たりする。
プロテスタント的職業観や、日本人的(あるいは儒教的)職業観とは食い違いが出てくるが、どこかで折り合いをつけつつ、多様な文化観が並存できればいいと思う。グローバリズムというのは特定の文化観、価値観の押し付けのように感じる。 「イラクに民主主義を」という人たちを見ていると、「民主主義」というものの価値が相対的に見えてくる。
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久しぶりに映画館で、映画を見た。タンザニアで映画館で映画を見たのは、ものすごく久しぶり、おそらく10年以上前だろう。今はなくなってしまったドライブイン・シネマ(今は要塞のようなアメリカ大使館になっている)以来だと思う。最近は「EU映画祭」というのが毎年あって、フランス文化センターやブリティッシュ・カウンシルなどで見られるが、映画館で見たのは本当に久しぶりになる。
その昔、というのは私が最初にタンザニアを旅行した1975~76年ころや、タンザニアに定住するようになった1984年ころのことを指すが、そのころは映画館がもっと多かった。記憶は定かではないが、上記のDrive Inだけではなく、Empire, Empress, Odeon, Avaron, New Choxといった映画館があった。Starlightも最初は常設の映画館だったように思う。ほとんど毎日、インド映画(甘いミュージカル)、カンフー映画を主体に、画面に雨が降る古い映画や三流のハードボイルド映画などを上映していた。 1時間半くらいの娯楽で、カランガ(ピーナッツ)を手に見に行った。子供も含め観衆は多かったように思う。
現在ダルエスサラームにある常設の映画館はAvaronだけで、それも金土曜日の週末にしか、上映しなくなっている。タンザニアはテレビ放送の開始が遅く、1995年ころまでなく、貸しビデオ屋もあまりなかったから、結構映画館で見る映画というのは都会の娯楽で、私の家に近いドライブインでは、映画館の外に音声の聴こえない映像を眺める観衆が暗闇の中に多く存在し、それを相手にする物売りも多かったのは、それほど昔ではない。
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日本でもテレビやビデオの普及で映画館が立ち行かなくなって久しいし、これは寡聞にして断言は出来ないが世界中の潮流ではないか。資本主義の精華としての(というかアメリカン・ドリームの宣伝媒体)ハリウッド映画も、そろそろ飽きが来る頃だろう、 と映画に詳しくない私は感じているが、ダルエスサラームでも都市化の進行で、街中が少しずつ空洞化していることや夜が物騒になっていること、娯楽が少しずつ多様化していることなども相俟って、映画は間違いなく斜陽産業だろう。
それが10月になって新しい映画館が出来た。街中ではなく郊外に出来た、「Matrix Revolutions」の世界同時公開の一翼を担うというバリバリのハリウッド映画の最新作を上映している、入場券がなかなか取れないらしい、というので興味半分に出かけたのだった。
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11月27日。ラマダンが明けた後の土曜日の午後である。我が家に近いムウェンゲのその名もNew World Cinemasは、中に3つもホールがある。この日はCine1で「S.W.A.T.」、Cine2では「Master & Commander」、Cine3では「Matrix Revolutions」と「Bad Boys 2」の併映だった。 (ちなみに近日放映のラインナップには「The Last Samurai-武士道」があった)
当日行って見て驚いたのは、広い駐車場ががらんとしていること。10台くらいしか停まっていない。入場料がTsh5,000(約520円)=大人も子供も同じ。とかなり高いが、これでは商売にならないだろう。外観も内装も、またホールの座席や音響もそれなりにお金を使ったようで、新しく感じがいいのに…。 私達が入ったCine3は座席数がざっと見て130席。観衆は私たち3人を入れて、12人ほどだった。ラマダン中の夜の娯楽は一杯だったのだろうかと思う。それにしてもね…。映画館につき物の売店はもちろん、ちょっとした軽食屋、子供向けのミニ遊園地まで作ってあるのに。
映画に関しての観衆の反応は、あまりに少なくて言うことが出来ない。少人数のせいか、冷房の効きすぎを感じたが…。開演ぎりぎりに飛び込み、予告が始まっていたから、タンザニア国歌を演奏していたかも報告は出来ない。ただ常設の映画館が、ダルエスサラームから消えないで欲しいなというのが感想である。
(2003年12月1日)
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