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Habari za Dar es Salaam No.11   Mandela attacks Bush ― マンデラのブッシュ攻撃―

根本 利通(ねもととしみち)

 今世界の焦点はアメリカによるイラク攻撃があるかどうかということだろう。国際政治の周辺にあるタンザニアでも例外ではない。万一(というよりははるかに確率は高そうだが)攻撃が起こると、それに対する反撃が、ムスリム多数派、伝統的な反米の空気の中で起こるかもしれないという懸念はある。そして石油のないアフリカの諸国ではかなりの困難が予想されている。にもかかわらず、国際政治の舞台(国連など)では米英対独仏の論戦は伝えられても、アフリカから声などめったには伝えられない。そこで、マンデラ元南ア大統領の批判を伝えておこう。

 いささか旧聞に属するが、1月30日のヨハネスブルグでの国際女性フォーラムでの演説。記事自体はニューヨーク・タイムスの記者によるもので、私は「East African」2月3日号の記事で読んだ。ネルソン・マンデラ(84歳)。アンチ・アパルトヘイト運動の英雄。ロベン島での27年間の投獄生活の後、1990年釈放。ANC議長。ノーベル平和賞受賞(1993年)。そして1994年初代の南アの黒人大統領。現代に残る数少ない巨人の一人である。

 アメリカをイラクとの戦争に追い込むブッシュを「先見性のない、論理的に考えることの出来ない大統領」と評した。「何ゆえにアメリカはかくも傲慢に振舞うのか?彼らの友人であるイスラエルは大量破壊兵器を大量に保有している。でも自分の盟友であるがゆえ、国連に兵器の破壊を要請をしない。石油が欲しいだけなのだ」

 ブッシュとイギリスの首相ブレアは国連の決議なしにもイラクを攻撃すると言って国連の権威を傷つけているとマンデラは言う。「それは今の国連の事務総長が黒人だからだろうか?白人だった時はこういうことはしたことはないのだ」

 南アに広範に存在している反戦の意識を、マンデラの後継者であるツァボ・ムベキ大統領やドゥラミニ・ヅマ外相は、反戦、国連による解決、南ア・アパルトヘイト政権下で開発された核兵器の破壊経験をイラクに生かすという外交活動を積極的に行っている。マンデラはさらに突っ込む。

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 イラクにおける人権の蹂躙をあげつらうアメリカを評して、彼らの良心はきれいというには程遠いと指摘する。第二次大戦中に広島、長崎に原爆を落としたことをあげ、「無実の日本の市民を大量に殺害することを決め、その被害者は今尚後遺症に悩まされているというのに、そのアメリカ人が今世界の警察官のふりをしている。もし口に出せない虐殺を犯す国があるとしたら、それはアメリカだ」

 南アの中でもANC、PAC、UDMはマンデラの支持を表明し、インカタ自由党は保留、白人主体の民主党は懐疑の念を表明した。南アが一枚岩ではないのは当然だし、それが社会の健全さを示す。

 またヅマ外相はAU(アフリカ連合)の外相会議で、イラクへの攻撃が開始されたら、石油のないアフリカ諸国での石油価格は暴騰し、多くの国の経済が打撃を受けるとイラク攻撃に反対を表明した。タンザニアでもじりじりとシリングのレートは落ち、ガソリン価格は上がっている。(ナイジェリア、アンゴラ、ガボンというアフリカ産油国は違う立場かもしれないが…)

 マンデラの演説で、広島、長崎への原爆を落としたアメリカの反省のなさが指摘されているが、反省どころか今尚アメリカではあの原爆投下は「多くのアメリカ人将兵の命を救い、戦争を早めに終結させた」という評価が正統だろう。従って今回のイラク攻撃にも、広島、長崎の経験は教訓として生かされ、出来るだけアメリカ人の命を失わずに、イラク人を効果的に殺し、抵抗心を失わせる手段が研究されているのだろう。日本の戦後処理ー占領の経験が、今回のイラクの占領に生かされるだろうというやりきれなさ。日本人やイラク人の命の重みはブッシュ政権には”全く違うもの”なのだ。  アメリカはドイツ、フランスとの論戦で「世界最古の民主主義国」と称したようだが、フロリダで露呈した民主主義の危うさを世界は見てしまった。アフガン攻撃の際に、口走った「十字軍」という言葉にブッシュの哲学のなさも知られてしまった。それでも突っ走る唯一の超大国という国際社会のなさ。

 1月にアメリカとイギリスがザンジバルでのアルカイダによるテロの可能性を指摘して以来、ザンジバルでの観光客特に欧米人は激減している。東海岸の外国人相手のビーチリゾートは閑古鳥がないたり、一時休業、閉鎖をしたところもあり、従業員は突然の解雇で揉めている。ザンジバル政府はクローブ価格の長期低落の中、観光業の収入に大幅に頼ってきたから、非常に困っている。観光業の「寄生性」を指摘するのは容易いが、平和を脅かすものへの反感は高まる。「イラクが悪い」なんていう子供の論理は通じない。アメリカ人在留者、旅行者はその反感と戦わないといけない。この時期タンザニアに動物サファリを計画していたアメリカ人がつぶやく。「私はブッシュは嫌いだ。でも、そんなことは助けにならない。…やはり危険だろうな…」

  ドイツやフランスがアメリカのやり方に抵抗するのは、それぞれの国内の政治的な判断とか、外交的な駆け引きなのだろうが、でもアメリカ一元支配は許さないという意思を感じさせる。ロシアや中国は自国内のチェチェンや人権問題などの覆いを被せようとしてヌエのような対応を取っていると感じられる。それに引きかえ日本の外交の貧困さというかなさというか、目を覆いたくなる。ただアメリカの犬よろしく、官房長官、外相、そして首相までが動き、安保理の票集めのためにアフリカ諸国の大使を呼びつけるという…。この軽さ、哲学のなさ。戦争か反戦かという単純な図式ではないにせよ、今は「戦争やりたい」派のためにロビー活動するというのは「平和憲法」の精神に反する、明らかな憲法違反ではないのか。

 日本の国内世論もマスコミを見る限り、反戦に盛り上がりがない。世論調査がどこまで行われているのか?政権はアメリカ派であるイギリスやスペインですら、反戦の意識は高いと思われる世論調査の結果が出ているというのに、日本のマスコミの脆弱さを感じる。善玉、悪玉論を放置するのはジャーナリズムの敗北だと思われるのに、アメリカの二重倫理性や、イスラエルのことに言及した記事が少ないのが気になる。歴史上の大愚行が行われようとしている。

(2003年3月1日)

安保理での採決が近づいている。イギリスですらアメリカとの亀裂を見せだしているのに、フランス外相を「舞い上がっている」と称する小泉首相のセンスは異常だ。フランスやロシアや中国の対応は「外交」なのだろうが、日本には外交はないのだろうか?

 それはともかく、今ミドル6と呼ばれる中間派非常任理事国の綱引きをしているようだが、その中でアフリカ3カ国(ギニア、カメルーン、アンゴラ)の動向が気になる。世界・人類の将来を握っている重大な位置を占めているのだ。

 特にアンゴラの動向に注目する。アンゴラは有力な産油国であり、イラクが攻撃されたら利益を受けるかもしれない数少ない国であろう。アンゴラは1975年の独立以来、南ア・アパルトヘイト政権とその後ろ盾であったアメリカのためにUNITAの活動を許し、膨大な死者・難民、経済的損失、民族間の憎悪・不信を生み出さざるを得なかった。それだけ被害を受けているのに、そしてそれはアングロサクソンの作った人種差別に源を発しているのに、それでもなお「外交」のためにアメリカを支持するのか?と思う。

  現実世界は厳しいだろうが、目先の利益ではなく、理想の正義を追って欲しいと思う。頑張れ、アンゴラ!

(2003年3月12日)

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