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Habari za Dar es Salaam No.40   "Selous Game Reserve" ― セルー動物保護区(2)―

根本 利通(ねもととしみち)

 タンザニア最大の自然保護区であるセルー動物保護区の続報である。前回(2004年11月)ダルエスサラーム通信第31回ご紹介した通り、アクセスの悪さと費用が高いことから、私個人では2回しか行ったことがなかった。昨年、TBSテレビの「世界遺産」ロケのお陰で、9月、10月、12月と3回にわたって訪れることが出来、乾季と小雨季のセルーを観察することが出来た。また今年7月にも短期間であったが、再訪することが出来た。今回は保護区が抱える問題を少し紹介したい。 

📷  セルー保護区はタンザニア最大の保護区で、総面積は50,000平方キロを超える。この広大な保護区を管理し、特に密猟を監視するのはなまじっかの仕事ではない。現在保護区のレンジャーは300人ほどだという。九州と四国を合わせた広さにである。これでも最近は増えてきたので、人数も少なく装備も貧弱だった1970年代後半から80年代にかけては、密猟者が横行し、ゾウ、クロサイなどの数は激減した。ゾウは11万頭から3万頭弱、サイは3,000頭と言われていたのが100頭以下に減った。世界最大のゾウ、サイの数を誇ったセルーで、少なくともサイの姿を一般の観光客は見ることはなくなった。私自身が最初にセルーを訪れたのは1986年であるが、サイを見たことはない。

  さて、セルー保護区の動物の保護に大きく寄与したのはドイツである。フランクフルト動物協会、GTZという日本のJICAに当たる援助組織が、1987年からセルー保護区の調査に乗り出し、タンザニア政府に協力し保護に尽力した。動物学者だけでなく、経済学者なども動員して、保護区の運営を考えた。その結果、周辺の共同体の住民を巻き込んだ保護政策が立てられ、密猟は大幅に減少し、ゾウの数は10万頭近くまで回復し、クロサイは未だ観光客の目に触れるまでは行かないが、厳重な監視パトロールの下、回復傾向にあるという。

 住民を排除して野生動物の保護区・国立公園を設立するといった「原生自然保護」から、周辺の共同体の住民を巻き込んだ「住民参加型保護」に変わったのは1980年代らしい(岩井雪乃氏の論文2001参照)。欧米で主流になったそういう思想による開発援助は、当然タンザニアの保護政策に反映する。生態系の持続的維持につながる資源の利用管理ということで、調査に基づき生物種が維持できる程度にはハンティングを認めようという方向が出てくる。実際に保護区の周辺の村落では、畑にバッファロー、ゾウが入ってくると大変な被害になるわけで、単純な保護賛成派にはなりえない。

📷  セルー保護区の収入はいったん中央政府に納められるが、その内50%は保護区の運営に還流し、また25%は周辺共同体の発展に充てられるという。この25%の使い道はその共同体の希望に添って、専ら小学校、診療所、道路、橋などの建設に充てられるという。 セルー保護区の収入は大きく二つに分けられ、観光収入とハンティング収入に分けられる。2001年の統計に依れば、観光客は4,802人で、それによる収入は$299,000である。一方、ハンターは482人に過ぎないが、それによる収入は$3,621,000で、全体の92%を占める。2000年は91%、1999年も90%である。セルー保護区の財政は圧倒的にハンティングに依存しているといって差し支えない。少なくとも現在の保護区はハンティングなしには維持できない。

   ハンティングというのはどういう形で行なわれるのかは実際には立ち会ったことがないので、よくは分からないのだが、あるハンティング会社のパンフレットにはと次のような料金表が出ている。1週間(最低)で$12,950、普通3週間で$44,500となっている。これは狩猟許可とその間の付き添いのプロのハンターと食費、キャンプ費であって、ハンティングに成功した場合のトロフィー費は別払いである。ゾウ($8,600)、ライオン($4,500)、バッファロー($1,200)と動物に料金がついていること、日本が象牙の輸入であれだけたたかれたゾウが撃てることにまず驚く。なおサイ、チーター、リカオン、キリンは撃てない。

 セルー保護区は47のブロックに分けられ、観光に開放されているのはルフィジ川の北岸の4ブロック、2,500平方キロだけで、残りの43ブロックは狩猟区(ハンティング・ブロック)である。ルフィジ川の北岸にも狩猟区は残っており、例えばダルエスサラームから東側の道をたどって、ムテメレ・ゲートに入ったすぐ北側にあるブロック(MK1)は実は狩猟区である。ダルエスサラームから行きやすいのでハンターも多く、私たちが行った7月にも既に3人のハンターが3週間の期間で入っていると言われた。ハンターにはアメリカ人、ヨーロッパ人が多いが、最近はアラブの王族もいるようだ。

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 観光区と狩猟区はもちろん隣接しており、境界線は見えないから動物は行き来する。ハンターに撃たれた、或いは家族が殺された経験のある動物が観光区にいるから、観光客の車にも敏感で、一定の距離を置いて近寄せない、逃げ足が速くなる。ゾウなどは車両に対して威嚇をする。保護区の本部はマタンブウェという西側のゲートにあるが、7月はそこで傷つけられた年寄りのゾウに出会った。私たちは車に乗っていたのだが、保護区のレンジャーは早く車から降りろと言う。何事かと思って訊くと、そのゾウは車と見ると突進してくるという。 私たちともう一組の観光客は保護区の本部の建物に入って、そのゾウの動きをうかがう。少し距離が離れたと見るや、もう一組の観光客の車は発進したのだが、ゾウは追いかけた。私たちも用事が終わってからしばらく待っていたが、しびれを切らして車で出発したが、やはりゾウは追いかけてきた。ガイドはゆっくり引きつけたりしていたが、私に余裕はなかった。

 狩猟(ハンティング)と保護の関係は一筋縄では行かないと思う。日本人の大半にとっては、狩猟は生活習慣に根ざしたものではないから、ピンと来ないかもしれないが、狐狩りと動物愛護が大論争になるイギリスなどでは、相互に強固な主張があるようだ。 セルーのロッジの女性(白人)は、若いころイギリスのハンティング会社で働いていたら、動物愛護派の強硬な抗議活動に遭ったと言う。彼女は「それは良い、悪いというレベルではなく、宗教のようなものだ」と言う。生死を賭ける宗教対立というのもない日本人にとっては、実感しづらい対象かもしれない。

 TBSテレビ「世界遺産」セルーは9月4日、11日2回に分けて放映予定である。乞う、ご期待。

(2005年8月1日)

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