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Habari za Dar es Salaam No.53   "Darwin's Nightmare-2" ― 『ダーウィンの悪夢』後日談 ―

根本 利通(ねもととしみち)

 8月1日の「Daily News」のトップ記事のタイトルに目を奪われた。  "JK Scorns Negative Film on Mwanza"というものだった。つまり「JK(ジャカヤ・キクウェッテ)、ムワンザに関する否定的な映画を軽蔑」という見出しである。次のように要約されている。

📷 ビクトリア湖の魚の大切さを訴える看板  ジャカヤ・キクウェッテ大統領は、パリ在住のオーストリア人フーベルト・ザウパー監督により制作・配給されているドキュメンタリー映画『ダーウィンの悪夢』を非難した。 いわく「タンザニアの優れた国際的イメージと、ヨーロッパへの魚の輸出にダメージを与えるために企画されたものだ」

 「Daily News」はタンザニアが社会主義だった時代、政府の機関紙だったし、その編集陣はあまり変化がないから、そのトップ記事で大統領の演説として伝えられたことは、タンザニア政府の公式見解と理解していい。もちろん政府は政治的に判断するから、自国の不利になるような報道には反論するものだ。しかし、タンザニアは独裁国家ではないし、国内の人権弾圧とか、少数民族の迫害とかいった内容の問題ではない。

 さらに詳しい記事による大統領の演説の要旨は次の通りである。

 「この映画は真実と事実の完全なる偽造である。我が国に悪意を持っていることははっきりしており、その挑発的内容を支える証拠がない。   この映画は水産物輸出と共にムワンザを絶望的な場所に描いている。タンザニア政府はビクトリア湖周辺のタンザニアのイメージを汚し、誤解を引き起こす話に強い関心を持っている。   タンザニア政府は報道の自由を尊重するが、それは中傷や名誉毀損を与えるために濫用されてはならず、メディアは報道の前に十分な調査をするべきであり、そのプロ意識が大切だ。」  大統領は、海外のタンザニア公館に、この映画による悪い印象を拭うよう指示したと述べた。

📷 ナイルパーチを運ぶ輸送機  8月5日にムワンザでこの映画に対する抗議デモがあったらしい。この映画は一般公開されていないから、ほとんどの人は観ていないはずだ(一部の水産関係者は観ているが)。従って官製デモの気配が濃い。

 さらに8月23日から5日間連続で「Daily News」で、「ダーウィンの悪夢のもう一つの側面」というシリーズ記事が掲載された。本腰を入れた批判かと期待したが、やや肩透かしをくらった。

 5回の記事では、まず映画で暗示されているような地域紛争への武器密輸との絡みを否定している。また悲惨な現場として描かれた「骨場」(Nyamangoloという地名だというのは私は初めて知った)での加工工場の廃物(Mapankiと呼ばれるらしい)利用がいかに環境保全、地域経済の活性化に役立ったか、そして「ナイルパーチがEUに運ばれるから、地域住民が腐ったアラしか食べられず飢えが広がっている」という映画の示す虚構を「トンでもない侮辱」と否定する。

 ただ重点は「ナイルパーチ加工産業がいかにタンザニア経済に貢献しているか」に置かれている。いわく、1999年から2005年にかけてこの産業の払った税額は2.5倍に伸び、ムワンザ州はタンザニア21州の内で5番目の歳入がある(上位はダルエスサラーム、タンガ、アルーシャ、キリマンジャロ州)、外貨獲得に貢献していること、直接では4,000人だが、間接的には100,000人の雇用を創出していること、ムワンザ市では建設業、石油関連、ホテル業などに積極的な寄与をしていることなどを事細かに記述している。これは「East African」誌の8月7~13日号にも書かれていたように、『ダーウィンの悪夢』が上映されたEU諸国でのナイルパーチ輸出産業への悪影響を懸念した水産加工業界の支援による記事と見えなくもない。

📷 ムワンザの魚市場の干物  私個人の意見は、この「通信」3月号、5月号に、ムワンザの事実と共に述べたので、もう繰り返さない。タンザニアの水産加工産業の懸念とは違った観点からの批判である。もうこんな矮小なことは無視したいというのが本音である。ただ、日本の中では少し違うようだという友人からの連絡があったので、ほんの少しだけ気になる。以下、ある配給会社の宣伝文句である。

  ”昨年、山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映されるやいなや、多くのメディアに取り上げられ、今年の米アカデミー賞にもノミネートされたドキュメンタリー映画『ダーウィンの悪夢』が、2006年冬より「お正月映画」として公開されることが決定いたしました。   すでに今年最大の衝撃作と注目度も高く、秋には監督のフーベルト・ザウパー氏の来日も予定され、大きな話題になる事が予想される本作。…”

 タンザニアの選択された側面の事実を並べ、その中に意図的な発言をする出演者を挿入した”ドキュメンタリー”映画を、タンザニアの現実に疎い映画配給会社が上映しようとしている。あるいはその背景には「グローバリズム問題」の題材にしようとするNGOなどがいるのだろうか。タンザニア、ムワンザの現実が歪曲されて伝わり、「良心的に」誤解され、結果として偏見が助長されないことを望みたい。

(2006年9月1日)

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