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Habari za Dar es Salaam No.93   "Ruaha Revisit" ― ルアハ再訪 ―

根本 利通(ねもととしみち)

 2010年、明けましておめでとうございます。  皆様のご健康とご多幸、そして世界の平和を祈ります。

📷 タンザニア南部のルアハ国立公園は、我が家のお気に入りの公園である。セレンゲティやンゴロンゴロ、マハレ、セルーといった他の国立公園や保護区も魅力的だが、通った回数はルアハが最も多い。ユネスコの世界遺産でもないので、知名度も低く、マスコミ(テレビ)で紹介されたことも少ないと思う。今回(2009年12月)古い友人夫妻が訪ねてくれたので、私は1年ぶり、妻は7年ぶりにルアハに行って来た。その旧友の夫の方は、タンザニア在任中、顔パスで通れたほど、ルアハに通っていた。何がそんなにいいのだろうか?

 ルアハ国立公園は面積は12,950km²で、タンザニアではセレンゲティ(14,763km²)に次いで2番目に大きい国立公園である。日本でいうと新潟県より少し大きい。1910年ドイツの植民地時代に設立されたサバ川保護区を起源とし、1946年イギリス植民地時代にルングワ(Rungwa)動物保護区となり、1964年にその約半分を分割してルアハ国立公園に指定された。現在はルアハ国立公園、ルングワ動物保護区以外にもその周辺に3つの動物保護区、2つの管理区域が併存し、全体で40,000km²に上る広大な生態系を形成している。近年、南側の動物保護区も国立公園に編入する計画が持ち上がっており、実施されるとセレンゲティを抜いて、タンザニア最大の国立公園となる。

 セルー動物保護区を流れるタンザニア最大のルフィジ川の上流の一つである大ルアハ川を中心とした国立公園である。最近ルアハに行って気になっていたのは、大ルアハ川の水量の減少である。乾季には「陸に上がったカバ」をよく見かけ、そのカバの体が棘の多い樹木で傷つけられているのをよく見かけた。今回は12月、小雨季の最中である。2009年の大雨季は雨が少なく、特に北部タンザニアからケニアにかけては十数年ぶりの旱魃とうたわれ、ツァボ国立公園でゾウが80数頭死んだとか伝えられた。セレンゲティでも乾季の終わりには肉食獣が痩せているというニュースが流れた。さて南部のルアハはどうだったのか? 

 ダルエスサラームから500km、ザンビアへつながるタンザン・ハイウェイを走って、イリンガまで行く。いい道路だが、現在ミクミの先の峠から、キトンガの坂を経てイリンガに至るまでをデンマークの援助で道路修理中である。修理中の区間は片側一車線になるから、結構待たされることもある。完成した区間はかなり快適で飛ばせる、怖いのは交通警官のみ…。キトンガの坂は日本の援助で数年前に補修完成したが、ザンビア、マラウィ行きの大型輸送車両が頻繁に通行するためか、既に少し傷み出している。それにしても、ひっくり返っている事故車両の多いこと…バス、コンテナトラック、トレーラーなど大型車両が多く、「どうしてこんな場所で?」と思うような場所でひっくり返っている。居眠り運転か、積載過剰か。

📷

 イリンガの町(標高1,600m)から、大ルアハ川を目指して、標高差800m余りを120kmかけて下っていく。途中の窪地の村では豊かな農村風景が広がる。トウモロコシが主体だが、水田もあり田植えの季節、少し乾いた地区ではタバコ農園がある。普通は途中から村沿いの幹線から逸れて、国立公園を目指す近道を行く。はるか彼方まで見通せるほんの少しだけくねくねした一本道、通称”Never Ending Road"を行くのだが、今回は近道への分岐点に大きな枯れ木が倒してあって、「通行禁止」のサイン。仕方がないので、終点の村(Tungamalenga村)まで幹線を行き、そこから公園ゲートを目指す。この村にはサファリ客用の比較的安価なロッジが2つあり、それ以外にキャンプ場という看板が多くあった。また、「Art」と書いた土産物屋さんもあった。そんなにバックパッカーの観光客(サファリ客)がいるとは思えないのだが。

 トゥンガマレンガ村を過ぎ、公園外のロッジを過ぎて、「国立公園境界」のサインが現れ、それを過ぎてすぐに公園ゲートがある。今年7月に完成した新しいゲートで、ゲート内外のトイレもきれいだった。従来のゲートは、さらに進んで大ルアハ川へ大きく下り、その橋のたもとのある薄暗い掘立小屋のようなコンテナだったから、見違えるように新鮮に見える。

 さて、大ルアハ川に下り、旧ゲートの橋のたもとで車を降りて、川を覗き込む。いた!カバとワニ!!長いサファリを終えてルアハに無事着いたことを確かめる瞬間である。飛行機で来ては味わえない感慨なのだ。ただ、水量が少ないのに目を瞠る。小雨季とは思えない低さである。その後、ゆっくり30分くらいのドライブで宿泊先のロッジに着くのだが、そのロッジはルアハ・リバー・ロッジという名前の通り、大ルアハ川沿いにコテージが並び、目の前を大ルアハ川が流れ、夜通し鳴くカバの声が気になって寝られないほど、カバ池がいくつもあるので有名だ。ところが、ロッジのコテージからざっと見渡してもカバがいないのだ。それもそのはず、カバが体を沈められるだけの水量がなく、川自体がほとんど流れていないよう見えるような水たまり状態だった。

 翌朝、夜明けのコテージから、またレストランから大ルアハ川を眺めても、水は流れていない。カバはおろか、よく水を飲みにやってくるウォーターバックの姿もない。水たまりに魚を探すハマーコップやイグレット(シラサギ)が数羽いるだけ。車に乗ってゲームドライブに出かける。観察道路はほとんどがミオンボ林と開放されたサバンナの植生である。バオバブ、アカシア、ソーセージツリーなどが散在する明るい疎林である。木々は芽吹いており、緑は新鮮なので、最近雨が降っていることは間違いない。私たちが滞在した2日間も強い降りが何回かやってきて虹がかかったりした。小雨季であることは間違いないのだが…、ルアハ国立公園と限らず、小雨季の降雨量は少なくなり、大雨季(3~5月)中心の雨季1シーズンになりつつあるのか?

 ルアハはバオバブの木が多いのだが、ゾウによって樹皮がかなりむしられているのが目立つ、バオバブ以外の樹木も倒されているのが多く、下手人はゾウとしか思えないから、やはりゾウの巨大な胃袋は満たされていないのか…「ゾウによる環境破壊」なんてことをちらっと思ってしまう。木々の緑は確かに新鮮だったが、下草はまだ枯れた色の地域も多く(下草の方が緑になるのは早いだろうとは素人考えか?)草丈も低く、インパラやグランツ・ガゼルのいる地区も限られていた。シマウマ、エランド、ブッシュバック、ウォーターバック、グレーター・クドゥ、レッサー・クドゥも見かけたが散在している。水場を求めて拡散しているとのこと。そうすると肉食獣、特にライオンも広く散らばっているのか。2日目の夕方、大ルアハ川の河床に下りているライオンのプライドを1回見たきりだった。ガイドは16頭と言っていたが、崖下に隠れていて、私たちが見られたのは6~7頭ほど、こころなしか痩せている気がした。

📷  大ルアハ川の水位が下がってきたのはいつごろからだろうか?正確な記憶はないのだが、1990年代後半から下がっていたのだろう。ルアハ国立公園の南西に接してウサング動物保護区がある。その中を大ルアハ川の上流は流れているのだが、さらにその保護区の外にウサング平原が広がっている。このウサング平原を遡り、ムベヤ周辺の2,000mを超える高原地帯(キペンゲレ山地)が大ルアハ川の水源なのだ。年間降水量2,000mmを超えるタンザニアでも有数の降水量の多い地域である。ウサング平原で、貫流する大ルアハ川の水を利用して水田灌漑の大プロジェクトが始まったのがいつなのか。私のいい加減な記憶では、1980年代の後半、既に日本のODAがついて、日本有数のゼネコンが大規模な開発をしていたと思う。

 今、手もとにルアハの友だち協会(The Friends of Ruaha Society=FORS)の2001年9月発行の機関紙がある。そこに、「大ルアハ川を、再び偉大に戻すための戦い」という記事が載っている。それによれば、1993年に初めて大ルアハ川が止まったとある。その理由として、森林伐採の進行、焼畑耕作によって起こるコントロールされない野火、移動耕作、牧畜民の流入などが挙げられるが、最大のものはやはり水田灌漑だという。特に乾季の水田耕作の取水のために、ウサング平原を流れ出る水はほとんどなくなる。そして水田に流れ込んだ水も、十分に活用されずに空しく蒸発する部分が多いという。当然、これは大ルアハ川を生命源とするルアハ生態系に大きな打撃を与えるのだが、ルアハ国立公園の関係者は、ウサング水・集水管理プロジェクトの関係者と長いこと見なされず、大ルアハ川の水を管理する協議会に参加すらさせてもらえなかったという。

 FORSのHPには、1993年の11月に初めて3週間大ルアハ川の流れが止まって以来、1994年に4週間、1995年には8週間と、どんどん長くかつ早くなって行き、最近は3ヶ月も止まると言う。今回、ルアハ・リバーロッジの支配人に水が流れていないことを指摘すると、ロッジに来て2年目のその支配人は「いつものことよ」という答えだった。「馬鹿言え。俺は1986年からルアハに来ているけど、12月=小雨季にこんなに枯れていたのは初めてだぞ」と応答したかったが、そこで少し考えてみた。昨年来たのは5月の半ばで、大雨季の直後で草木も緑が濃く、水量も十分だった。それより以前はほとんど年末年始で、特に1月初めが多く、水は多かった。1998年(?)のエルニ-ニョの年などは「カバの川流れ」を見た記憶がある。純粋な乾季に来たことは、1986年の最初の年にしかなかったのかもしれない。「大ルアハ川が止まる」ことを16年目にして、初めて目の当たりにしたのかもしれない。

 今回、リカオンもローンもセーブルも見ることはできなかった。公園のレンジャーに言わせると、「朝早く出てかなり北部の丘陵地帯に行かないと」ということだった。リカオンはおそらく10年以上ルアハでは見ていない。今回は滞在日数が少なかったせいもあるが、見た水鳥の種類も少ない。水量の減少は、時に水辺の生物には死活問題だろう。 「環境と開発」「人類の経済活動と自然・野生動物の共存」という古くて新しいテーマに戻ってしまう。

📷  さて、今回は大ルアハ川の水位のことがメインになってしまい、ちょっと暗かったが、ルアハの魅力はなんだろうかと考えてみる。ガイドブック的に言うと、「北部(ケニア~セレンゲティ・ンゴロンゴロ)の植生動物と南部アフリカ(南ア、ジンバブウェ、ザンビアなど)との植生動物の交差点というところだろうか。今回は見られなかったが、リカオンやセーブル・アンテロープ、ローン・アンテロープが観られる。

 しかし、個人的にルアハに惹きつけられるものは何かと考えた時、「怠け者のサファリが出来る」ということが第一に来そうだ。つまり北部のセレンゲティは広大なサバンナだから、動物は多いが、かなり頑張って走り回らないといけない。ロッジにいながらにして様々な動物を楽しむというわけには行かない。ところがルアハではそれが可能なのだ。ルアハには現在4つのロッジ、キャンプがある。その全てが川沿いに建てられている。ルアハ・リバーロッジは大ルアハ川、ムワグシ・キャンプはムワグシ・サンドリバー、ムドンヤ・キャンプはムドンヤ川、ジョゴメル・キャンプは大ルアハ川のさらに上流にある。皆川沿いで、動物たちが水を飲みに来る場所にあるのだ。

 ルアハ・リバーロッジは、コピエ(岩山)を利用したところにメインのレストラン、バーがあり、そこから食事をしながら、川に水を飲みに来る動物、鳥を眺めることができる。20年以上も前だが、ある生態保護学者と一緒に昼食を摂っていた時、「あっ、ワニに食われている」とその人が双眼鏡を覗きながら言った。水を飲んでいたウォーターバックがワニに引きずり込まれたのだ。私はその瞬間は見られなかったが、ばたばたやっているウォーターバックは見えた。その人は「俺たちも食事しているが、ワニも食事中かぁ」と納得顔だった。また別の機会に、今回一緒に行った人と、麻雀卓を川沿いのコテージに持ち込み、そのベランダで麻雀していた時である。川の対岸にはキリン、ウォーターバック、シマウマ、バッファローなどがいるのだが、構わず麻雀。その内に抜け番の人が「おっ、ライオンだ」と叫ぶ。見ると、メスライオンが2頭、バッファローを目指して低姿勢で近づいている。しばし麻雀を止めて観戦。このときはハンティングは失敗したが、成功まで見届けたことがあるとその旧友の言。またその妻は川辺で写真を撮っていたら、カバに追いかけられ必死で逃げたと言う。対岸なら悠然と眺められるが、こちら側に来られると余裕はない。自分の泊まっていたコテージの下に手負いのバッファローが寝ていたり、隣に泊まっていた少年たちのコテージの外でゾウたちが木を食べていて、少年たちがしばらく出られなかったり、岩山のレストランから下りて来たら、懐中電灯が赤い目を照らし出し、それが残飯あさりにきていた老ハイエナだったりという記憶は枚挙に暇がない。今回も初日の夕方は敷地内にゾウの群れがいて、マサイのエスコートが義務付けられたりした(マサイが一緒でもゾウが向かってきたら逃げ切れないと思うのだが)。私の言う「怠け者のサファリ」というのはこういう点である。

 もちろん、泊まるルアハ・リバーロッジが快適なのもいい。タンザニアで生まれ育ったイギリス人がやっていて、食事も美味しいし、簡素なコテージだったが、オーナー夫婦、子どもたちがルアハの自然を愛している雰囲気が良くわかるのも安心できる。私たちの子どもたちが小さい時は、同じ年頃のオーナーの子どもたちと裸足になって遊んでいたものだった。今その子どもたちはイギリスに留学中だし、オーナー夫婦もダルエスサラームに本拠を移し、ルアハの支配人はデンマーク人の女性に任せている。コテージも改装され、ちょっと私たちから言うと立派になってしまった。でも、心地よくのんびりとサファリ気分を味わえる場所としては、依然第一のお勧めである。Karibu Ruaha ! 

The Friends of Ruaha SocietyのHPはhttp://www.friendsofruaha.org/home.html ルアハ・リバーロッジについては、最新リゾート情報第23回をご参照ください。

(2010年1月1日)

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